沼地。

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『大晦日の夜に』

一年以上ほったらかしてた大晦日静なつSS。
正に妄想バンザイな大晦日静なつSS。








大晦日。
私は静留の故郷に居た。

「観光がてら、なつきも一緒にどうどす?」

前触れもなく誘われたのは冬休み前日の終業式。
もちろん私は “やることがある”の一点張りで断った。
だがしかし、静留の奴は……

「これ、なんや思います?」

言ってあげられた右手には、手紙を送るにしては長細い封筒が一つ。
「?」
分からないまま黙っていると、静留は満面の笑顔で中身を取り出し、私の目の前に差し出した。
「京都行きの新幹線のチケット? それが何故ニ枚もあるんだ?」
「冬の京都の空気を味わうんも、なかなかオツなもんどすえ」
「……あのなあ」
私は軽くため息をついた。
静留が私の問い掛けを堂々と無視した答えを出したときは、決まって我を貫き通すときだ。こう見えて強引なところがあるから、珠洲城なんかは普段相当苦労させられているに違いない。特に今はチケットを自分の口元にあてているせいか、有無を言わせぬ迫力ある笑顔に見えた。
「決まり、やね。ほなうちこれから職員室に用事ありますさかい失礼します。また連絡しますから」
「あ、お、おい!」
いつの間にかチケットも静留も視界から消えていた。
こうして断る隙もなく一泊ニ日の里帰りへお供することになった。


大晦日。
私は神社の門前に居た。

鳥居と同じ色をした神社ならではの立派な門構えを目の当たりにすると、京都に滞在しているという実感が増した。
境内へ入ると、お面や飴細工などの出店が立ち並んでおり、一瞬季節を錯覚した。
「こっちこっち。向こうは花見の時期やったら、しだれ桜もあるしちょうどええんやけどねぇ。冬は閑散としてます」
「そうなのか」
分かれ道を後にして進むと、思った以上に広い敷地に辿り着く。そこで真っ先に目に映ったのは一カ所に集中している人々だった。
「あら、もうおけら参り始まってるんやね」
「おけら? なんだそれは?」
植物のオケラなら知っているが。
「毎年大晦日に行なわれる神事でな。簡単に言いますと、おけらの成分が入った縄に火ぃつけて、消えへんようにくるくる回しながら持ち帰るんどす」
確かに人混みから時折炎が垣間見える。
「いまいち想像つかないが、危険じゃないのか?」
「危険かどうかはやってみたら分かりますえ。無病息災を願うもんやから、なつきにはちょうどええやろし」
「ふーん……って、おい!」
「ほらほら、そこかしこに居はりますやろ」
上手くかわされた気がしてならないが……辺りを見渡すと、説明通りに火縄を回している手本が次々に目に映った。神事にしては妙な光景だ。
「あそこで長い棒持ったはるお兄さんに声かけて買うんどす。あ、でもその前におみくじ、ひかはるよね?」
静留は立ち止まって私の腕をつかみながら訊いた。
「私は別に」
「普通のんと恋みくじ、どちらにしはる?」
すでに売り場の方へ手を引かれていたので大人しくついて行くことにした。


しばらくぶりのおみくじをてきとうに枝に結び付ける。
隣では静留が、私より結果が良かったにも関わらず丁寧に結び付けている。
「綺麗に出来ましたわ」
「結ぶのは一つだけなのか?」
「ええ。こっちのんが良かったさかい、お守りにしよ思て」
静留は嬉しそうに財布にしまうと、傷を付けないためかゆっくりと鞄に戻した。
「まさか両方占うとはな」
「恋みくじは三年くらい前からやけどね。普通のんは昔から毎年引いてますけど」
「へえ。まあそのなんだ、叶うといいな。せっかく良かったんだし」
「……おおきに。ほな、おけら参りしましょか」
「ああ」


賑やかな場を離れたせいか一段と寒く感じる。
静留はやっぱり風華より寒いと言うけれど、私には違いが判断出来ない。
先程、薪のような燭台から灯した火縄は細い煙を発しながら回っている。気恥ずかしさもあったが、貴重な体験だと思えば戸惑いはなくなった。おけらの成分のせいか少し変わった香りがする。帰り道は神社へ向かう参拝客が行きより多く、窮屈だった。

細道に移動すると歴史を感じさせる旧家や商店が立ち並ぶ。
厳かな雰囲気の中で静留は次々と“お知り合い”に声をかけられている。曰く、華道や茶道の先生、商家の跡取り、行きつけの御茶屋の舞妓や芸妓まで現れてあっけにとられた。
そこにきて藤乃家は、おそらくこの界隈では一番の権力をもっているであろう高級旅館のような佇まいをしていて、私は思わず立ち止まってしまった。それほどスケールが大きいものだった。

初めてお会いした御両親は、静留より印象的な京都人らしさを持つ方々だった。どちらかと言えば父親似だと思う。
二階の部屋に上がらせてもらうと自分たちの荷物があり、数時間前、駅の改札を抜けると迎えの車が三台あったことを思い出した。
大まかに見回すと徹底された和の空間が、洋室を中途半端に和室使用している私からすれば静留らしいというか、素直に感動した。
「もうちょっとで年越し蕎麦出来ますやろし、様子見ついでにお茶煎れてきます。自分の家や思てくつろいでな」
そう言って静留は上着を脱いでハンガーに掛けると下へ降りて行った。
私は思わず、それは無理だろう、と呟いた。


「お味のほうはどうどす?」
「ああ、うまい」
にしんの甘煮がのったそれは、さっぱりしたつゆとよく合っている。ここでは多くの家庭が、にしん蕎麦で年を越すらしい。
「そら良かったわぁ。なつき、マヨネーズ好きやからこっちの味は合わんかもしれん思て心配やったんよ」
「マヨ好きだからって全て濃い味が好きだとは限らない」
「そうどすか。あ、にしんは柔こう炊いてありますさかい、小骨まで食べれますえ」
「分かったから早く食べろ。のびるぞ」
さっきから静留は私を眺めるばかりで、いまだ蕎麦に手をつけていなかった。
「はい、ほんならいただきます」
手をあわせて軽く会釈をし、ズルズルと、しかし上品に蕎麦をすすり始める。
「ああおいし。あったまりますなぁ」
炬燵と暖房が効いた部屋でしみじみ言った。
「この麺な、昔からお父はんと知り合いのお蕎麦屋さんが毎年この時期になると家まで届けにきてくれはるんよ。せやから、これ食べると帰ってきたんやなぁ、て安心します」
その蕎麦屋も伝統ある店なんだろうな、と予想する。
「しかしいいのか、久々に御両親と会ったのに私なんかと居て」
「そうやねぇ、お父はんもお母はんも、そろそろ挨拶回りで夜遅うまで家出はりますからなぁ。なつきが気にすることはなんもあらしません。そないなことより自分のこと“なんか”て言うたらあきませんえ」
「いや、私は部外者だから」
実家へ帰る、ということは馴れ親しんだ場所で休息をとることだろう。
だから私は、チケットが用意されていたことより行動力に驚いていた。
「……嫌どした?」
「え?」
突然沈んだ声が発せられる。
条件反射のごとく静留を見ると、俯いているため顔がよく見えず、今日一日同じ人物とは思えない様子だった。
「静留……?」
「………」
ただ重苦しいだけの緊張感が存在しており、これ以上続けたくない気持ちを起こさせた。
「い、嫌じゃない! 全然嫌じゃないぞ?! こういう過ごし方は初めてだから……そう、それだけだ! 私は全然」
「……ふっ」
「……ふ?」
今度は状況に合わない声が聞こえてきたので、改めてよく見ると口元が笑っていた。
「か、堪忍な……嫌どしたやなんて、いけずな訊き方でしたわ………!」
「あのなあ……」
私は深くため息をついた。
静留がひとりで楽しんでいるときは、決まって私が焦っているときだ。
過去に何度も繰り返されているのに、いつも見破れないやり取りだった。特に今は慣れない場所に居るせいか有無を言わせぬ迫力に敏感で、いつものように怒る気力も湧かない。
「本まなつきはかわええなぁ……!」
「……もういいだろう。笑うのはよせ」
私は蕎麦を食べることを再開した。
「悪かったて思てます」
「どうだか」
静留はやっと笑い終えると残りの蕎麦を食べ始めた。
やわらいだ表情は変わることがなく、蕎麦をすする音が続いた。


「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「あら、にしん全部食べたんやね。これで日頃のカルシウム不足が補えますえ」
「だといいが」
空になった器を床にあるお盆に戻す。いかにもこの家と一致している絵柄の食器類。これも頂き物だろうか。
「ほな片してきますわ」
「持とうか?」
「ええって、お客さんやからね。食後のおいしいお茶煎れてきますからのんびりしといてください」
「静留といえばお茶だしな……」
私は何かを紛らわすように戸を開けた。
「おおきに。よう分かったはるやないの」
廊下から強い冷気が流れてくる。ここまで温度差が厳しいと、さすがに風華との違いが判断出来そうだ。
「あんなぁ、なつき」
「ん?」
「うちはなつきを初めて見たときから誘いとうて仕方ありませんでした。もちろん大晦日の日ぃだけやなくてね。うちのわがままに付きおうてくれて本まありがとうな」
「あ、ああ」
「寒いですやろ、はよ戸ぉ締めて部屋ん中閉じこもった方がええで」
そうして静留は姿を消した。

(初めて見た……? 初めて声をかけられたときとは別の話だろうか)
あのときの自分に対しては今でも自信ある答えが出せずにいる。それなのに静留は何を見ることがあったのだろう。
「戻ったら明日の打ち合わせしますから行きたいとこ考えといてな」
「うわ! ま、まだ居たのか!」
「なかなか戸ぉ閉まる音しませんでしたから気になりまして。どうかしはったん?」
「何もない。あまりに寒くて動けなかっただけだ」
「そら気を付けなあかんね」
そうして静留は次こそ完全に姿を消した。私も冷気を閉め出して、元居た場所へ戻った。
再度考えて分かったことは、静留をわがままだとは全く思っていないことだ。
それだけでも今の私には十分かもしれなかった。


始業式当日。
またいつもの生活が始まる。
情報収集のためだけに通う学園。有力情報のためだけに訪れる繁華街。

冷蔵庫を見ると磁石で飾られた火縄があり、二日間の出来事が自然と甦る。
正月は藤乃家総出の中、おせちとお雑煮から始まり戸惑いもあったが、とても華やかだった。興味があった観光名所も静留のおかげで間違いがなく巡れた。
静留と居るのは気が楽だが、楽しさを明確に感じたのは珍しいことだった。

(……今さらだが、やはり言おう。誘ってくれてありがとう、と)

朝食を済ますと具体的な準備に取り掛かる。
休日と変わりない日にまともに登校するなんて何年振りだろうか。
始業式はついでだ、とよそおってみてもごまかすことは出来なかった。
静留に伝えるためとはいえ自分がおかしかった。
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by cyawasawa | 2008-01-30 15:38 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。コス写専用アカ→@cyawa_cossya


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