沼地。

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『sweetness』

思った以上に手こずったー奈緒ちゃんお誕生日おめでとうSS!
※静留と奈緒なんで注意!!※








一一一規則正しい音が響き終えると、瞬時に雑多な音が沸き起こる。

先程まで木々の存在しか見当たらなかった学園は、一気に活気をみせた。
お喋りをしながら各々の帰路にむかう者、部活の準備に取りかかる者、駆け足で外の世界へ遊びに行く者。生徒たちはみな晴れやかな表情で、自由を満喫しようと慌ただしい。

しかし、それとは正反対に陰りをもった少女がひとり。
携帯の画面を睨むように見つめ、今にもため息をつきそうな雰囲気でだらだらと歩いている。
(ったく、あおいの奴……一体どういうつもりよ)
視線の先には正午に届いた受信メール。返信された気配はない。
(余計なお世話だっての)
ため息と同時に携帯を閉じる。
返信キーの上に添えられた指は動きを見せないまま役目を終えた。
自分の中で吹っ切れたのか歩く速度が増し始めた、そのとき。

「あら、結城さんやないの」
「げ、藤乃!」

一瞬足が止まりそうになったほどの近距離に見知った相手がいた。
また、咄嗟に拒否反応の声を出してしまったほど関わりたくない相手でもあった。
そして、今は一刻も早くこの場を離れたい気持ちに追われている。
(無視よ、無視)
最初から居ないがごとく通り過ぎようとすると、何故か進路を阻まれる。
負けじとかわしても右に動けば右に、左に移動すれば左に、とキリがない。

「……何なのよ。通してくんない」
たまらず呆れ顔で応える。
「せっかく偶然会うたんやさかいに、そないあっさり行かんでもええやないの。うち、傷付いてしまいましたわ」
「どこがよ」

微笑みながら言われても説得力がなかった。

「今、お帰りどすか?」
「見りゃ分かんでしょ、こっちは急いでんのよ。あんたも早く会議行けば?」
「急いではんのにうちの心配までしてくれはるなんて、ええ子やねぇ」
「違うわよ! 都合の良いように解釈すんな!」
「はいはい奈緒ちゃん、堪忍なぁ」
「全然反省してねえし。つーか、あんたが言うとキモイだけだからやめてくれる、その呼び方」

奈緒は腕を組んで威嚇を示したが、静留には何の効果もないようで、会話はそのまま続けられた。

「せや、うちの勘違いですんだらええんやけど……何かあらはったん?」
「は?! どういう意味よ」
静留の言ったことがあまりにも突拍子過ぎたのか、思わず真顔になる。
「いやなあ、結城さんが気付かはるずうっと前から見さしてもろたんですけど、何や悩ましげな様子やったさかい気になりましてな」
「ずうぅぅっと見られてたせいなんじゃないのぉ? 別に何もないしぃ?」
「そうどすか。せやったらええんどす」
ずうっと、の部分を強調して放った嫌味も静留には効果が無かった。奈緒は自分で自分の首をしめたような間隔からも逃げたくなった。
「……もういいでしょ、通しなさいよ」
「ええ、うちの勘違いでしたわ。帰るん惜しがってはるように見えたんやけどね」
「!」
奈緒は咄嗟に未だ手中にある携帯に視線を移す。
見慣れた携帯なのに違和感があった。加えて苛立ちさえも感じられる。
再び目の前の敵に視線を戻すと温厚な微笑みは変わらない。どれだけ突き放しても、いくら憎まれ口を叩いても、静留はいつもそうだった。用がなくても携帯を片付けない矛盾が奈緒にとって自然のなりゆきであれば、静留の微笑みは必然だった。
しかし、奈緒には、いつもひとつの結論に追い詰められる余裕の笑みでしかない。

(こいつと関わると、主導権を握れないから嫌なのよ……!)

あおいからのメールや自分の気持ちまで見破られているような微かな危機感。それでも存在する確かな安心感。どちらも受け入れ難い事実だったが、今、ここに自分が居ることほど痛感出来る証明はなかった。
「結城さん?」
さすがの静留も、いつもなら瞬間的に返ってくるはずの反応がなければ細まった目は元の形に戻り、不思議そうに尋ねた。
「うるさいわね! ほっとい……!」

「奈緒ちゃーん! メール見てくれた〜?」

突然、後方から発せられた大声によってかき消される。
「?!」
声がした方へ素早く照準をあわせた先には、あおいの他に見慣れた顔が数人。
奈緒は、またしてもこの場を離れたい衝動に負けそうになったが、立ち去った方が増々自分を追い詰めることを直感的に理解していた。だから、誰にも聞こえない声で不満を呟くことしか出来なかった。

「最悪……」

そんな様子にはまったく気が付くことなく、あおいは左手をメガホン代わりに続ける。
「一時間後に私たちの部屋だからね〜! ちゃんと来るんだよ〜? 今日は奈緒ちゃんが主役なんだからね〜!!」
「ん! 奈緒、遅れずに来るんだぞ! 舞衣のごはんが冷めるからな!」
「ちょっと命〜、あんた今日ぐらいはおとなしくしとかなきゃダメよ? あ、もちろんケーキもあるからね〜!」
三人とも同じポーズだった。わざとではなくても奈緒にダメージを与えるには十分な演出だった。前方には一行、後方には静留、そして辺り一面には周りの生徒からの注目と、正に生き地獄だった。
「それにしても珍しいツーショットだねえ。記念も兼ねて撮っときますか」
携帯カメラのシャッター音が陽気に鳴る。背後の生徒会長はちゃっかり微笑みを復活させていた。
「あ〜! 千絵ちゃん、それあたしの携帯に送……って、今は我慢我慢。そんなわけで奈緒ちゃん、後でね〜! 会長さん、さようなら〜!」
あおいたち一行は手を振りながら去って行った。最後は全員が同じポーズだった。

(………ここまで予想通りの展開だと笑えてくるわね)
奈緒は悪夢をみた朝のようにうなだれていた。
「結城さん、愛されてますなぁ」
静留は後ろ姿に優しく言った。
「ふん、勝手におめでたい奴らだわ」
「おめでたいのは結城さんですやろ?」
「そういう意味じゃないわよ!!」
はっきりと、攻める声だった。
変化が始まる感情であることは、勢いよく振り向いた動作からも明らかだった。しかし、奈緒の目の前に現れたのは覚悟をしていた微笑みではなく、見たこともない袋だった。
「………は?」
折り畳んだ携帯ほどの大きさ。持ち主には似合わない配色の柄。そこまで精一杯汲み取っても疑問点は収まらず、妙な顔をして佇むしか出来ない。
「お誕生日おめでとうございます」
静留は真剣なのかふざけているのか、絶妙な物言いで祝福の言葉を告げた。
「…………は?」
「プ・レ・ゼ・ン・ト、どす。結城さん、気に入ってくれはったらええんやけど。うち、こういうん、よう分かりませんから」
言いながら奈緒の開いている手のひらにそっと乗せる。見た目よりも重量感があったのか、そこでやっと我に返ったように、いらないわよ!、と拒否しても、いつの間にか静留は視界には入らない反対側へと進んでいた。
「ほなうち、お仕事しに行きますわ。そろそろ珠洲城さんにどやされそうやさかいね」
離れた先には残りの生徒会メンバーが存在していたが、思考も身体もかたまっている奈緒には知る由もない。
(藤乃があたしに……? つか誕生日知って……じゃなくて! ああもうっ!)
右手には携帯、左手にはプレゼント。どちらを見ても悩みの種ばかりが思い浮かんだ。
ただ、去って行く靴音で静留が急ぐ気なんてさらさらないことだけは理解出来た。

「……………バッカみたい」

何に対して、誰に対して向けられたのか。
自身にも聞こえないような小声を出すと、奈緒はようやく歩き始めた。
望んでいたひとりの時間を手に入れたのに、足取りは鈍かった。



一一一規則正しい音が響き終えると、瞬時に雑多な音が沸き起こる。

奈緒は“通話中”という良き盾を装備していた。昨日と同じ状況を繰り返さないためには最適の防具だった。違いといえばそれぐらいで、静留の方は相変わらず裏か表かの意図がつかめない微笑みで、飄々としている。
見向きもしない奈緒と、見続ける静留。視線は当然交わらない。
それでも発言の攻撃チャンスを伺う静留だったが、お互いを確認出来る距離に迫ると、急に笑いをこらえることに専念し始めた。咳をするふりをして口元を隠したり悩んでいるふりをして眉間に皺をよせてみたり。しかし、どの努力も止まらない小刻みな震えのせいで無駄に終わった。
事情を知らない人間からすれば、微笑み以上を滅多に見せない生徒会長がそのようになっているのは物珍しさを超えて不思議な光景だった。同時に、近付く中等部女子と何か接点があってのことだろうかと推測まで巡らせた。人目は目立たないにしろ、好奇心の類いがふたりに集中しているのは確実だった。
それなのに、いざすれ違いざまに差し掛かっても何も起こらない。
言葉を交わすわけでもなく笑顔を交わすわけでもなく。誰がどう見てもふたりの関係は“他人”だった。
心待ちとは反した結果が分かると、事情を知らない人間たちはそれぞれに結論を出し、無理矢理納得させ、また自分たちの世界へと戻っていった。


(……なるほど、結城さんの場合は態度に出はるんやね)
ようやく落ち着いた顔つきに戻ると、静留はゆったりと離れていく相手の背中を感じながら思い始める。
(よくもまぁ、あないに上手いこと組み合わせてきれいに貼らはるもんやねぇ)

ピンクのハート。赤のハート。クリスタルのリボンにパール。
奈緒の携帯には大小様々なデコレーションシールが彩り良く装飾されていた。
見覚えがあるのは静留だけで、通じるのは静留と奈緒のふたりだけだった。

(本ま可愛らしいわ)
今度は隠す必要がない思い出し笑いを済ますと、どこか嬉しそうに目的地へと向かって行く。急ぎ足が、再び物珍しさを超えて不思議な光景となるのはすぐのことだった。
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by cyawasawa | 2007-10-10 18:15 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。


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