沼地。

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『乱れる糸』

奈緒ちゃん、お誕生日おめでとうSS。
短いです。








ケータイが勢いよく鳴った。

「!」

と、同時に触れ合う直前だったお互いの唇はピタリと止まる。
「何だよ、これからってときに……冷めるじゃねぇか」
男は不機嫌に顔を離した。
「ごっめーん、電源切るの忘れてた! ちょっと待ってね」
少女は申し訳ない笑顔で言うと、ケータイを取り出し、男とは反対側に少し距離をおいた。
そして小声でつぶやく。


「それはこっちのセリフだっての、バーカ」


上空のビルにチラリと目をやると、そこにはクモのようなシルエットをした巨大な何かが闇に潜んでいた。

気怠そうにケータイの画面に視線を戻す。
瞬間、男より不機嫌だった少女の顔は、あっという間に柔らかくなり、慌てて通話ボタンを押した。
背後では、おい、ほっとけよ、という声。

「何? どうしたの、こんな夜中に一」
時計を確認すると、0時ちょうどだった。
「うん……課題をしていたの。いつもはとっくに寝てるから。大丈夫、心配しないで」

男は懲りずに茶々を入れるが、少女は、会話に夢中だ。

「……え? あ! っははは、そういえばそうだったよね! ……うん、ありがとう。ごめんね、ありがとう」

いつの間にか、後ろから抱きしめられている。
制服を脱がそうと、首から腰へと移動する男の手の動き。

「もう、無理しないでよ……分かってるって、あたしは大丈夫。じゃあね……うん、ありがとう。おやすみなさい」
ピッ、と通話を終えた途端に少女は深くため息をついた。
しつこくも男の手探りは止まらない。

「いい加減にしろって、俺もう……」

強引に近付けられる唇。
突如、少女は男を振り払い、

「だからこっちのセリフだっての! ウザいんだよ!!」

豹変した態度で叫んだ。

「ジュリアッ!」


ドンッ!!


何が起きたのか理解が出来ぬまま、男は意識を失った。
「ふん、今日はここまでにしといてやるわ」
制服を元の状態に直し、鞄を手にとる。
「帰るよ、ジュリア」
のびた男の上に堂々と佇んでいたジュリア、という巨大な何かは、その場を離れ、どこか嬉しそうに少女に背中を差し出した。
そしてあっという間に上空のビルへ、ビルから空へ、人目を避けるように夜空を駆ける。


「プレゼント、寮に送ったって……別にいいのに」
嬉しさと寂しさが交互に存在する複雑な笑みをしていた。


(奈緒ちゃんおめでとう、って久々に言われたな)


その言葉を思い出すと、優しく満たされた気持ちになった。
しかし、それまでの出来事が頭に浮かぶと、一気に沈む空しさに襲われる。


(……何やってるんだか、あたし)


いつもなら、全く気にしないことだった。
いつもなら、金を奪って意気揚々と達成感にひたるのが当たり前だった。
それが、最愛のヒトからの電話で簡単に崩される。
自分の“力”の使い方。
自分の力が使える“理由”。
こんな日に、皮肉だった。

それでも“特別な日”という自覚はあって、何か期待せずにはいられない。


「明日は学校サボってケータイでも買いに行こっかな」

声に出すと実感が湧いてきて、沈んだ気持ちが嘘のように晴れていく。

「別に自分へのご褒美ってワケじゃないけど。つーか、誕生日なんて忘れてたし」

自嘲気味の中に、少女らしさがうかがえる。
そんな想いを馳せた、笑顔だった。
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by cyawasawa | 2006-06-15 01:23 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。


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