沼地。

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『アナフィラキシー』

静なつバレンタインSS。

時間軸は“静留となつきが出会って初めてのバレンタイン”ということで静留は高2、なつきは中3設定です。








「……すごいな」


放課後。
なつきが、いつものように生徒会室の扉を開けると、そこにはいつもと様子の違う静留がいた。
絶対に一人では持ち運べないであろう大きな紙袋が長机の上にいくつか並べられており、 “品定め”をしていたのか、静留の手には可愛らしいラッピングが施された装飾物がいくつか握られている。

「あら、なつき。おこしやす。ほんで、おおきに」
静留は、手にしていたそれらを紙袋の側に置き、嬉しそうになつきを見る。
「今日はバレンタインやったんやね。コレ、せっかくやから皆で分けて食べよう思て。さっき雛菊はんらが運んでくれはったんやけど」

なつきには雛菊、というのが誰だか分かりかねたが、こんな日にこんなことをするのはあの連中しかいないだろうと勘付き、鞄をもう一つの長机に置いた。

「しかし、それにしては量が多過ぎやしないか」


今にも生徒会室に甘いにおいが染み付きそうな、たくさんの想いの数。


「何やうちに渡したい子ぉらのを代表して預からはったみたいどすわ。確かに一括して渡されたほうが楽なんやけど……」
言いながら静留は、近くのパイプ椅子に腰掛ける。
「恥ずかしさで真っ赤になった女の子の姿を、この目で直接見れへんかったんは惜しいどす」
静留は笑顔だったが、本当に残念そうにため息をついた。
「そうか。まあ次からはその雛菊とやらに余計なことはするな、と頼んでおくんだな」
なつきは意地悪そうに微笑んだ。
「そうやね」

軽く笑ったあと静留は、食べましょ、と手招きをして、なつきを向かいに座らせた。
そして先ほど紙袋から取り出した“想い”を次々に開封する。
どれも有名店の高級チョコで、高校生には釣り合わないような上品さが醸し出されていた。
さっそく宝を山分けするように、目を輝かせて食べ始める。


「なつきは、誰かにあげたりしはらへんの?」
チョコの包装紙を見つめながら、静留はどこか余裕なく訊ねた。
「だ、誰かって誰だ! と、いうか私はそんなことにかまっていられるほど暇じゃない!」

反論しながらも、心なしか頬が紅潮しているなつき。

「そない否定せんでもええやないの。ほら、例えば武田君にお礼として何かあげはるとか」
「何のお礼だ、何の」
「日頃の想いに感謝をこめて」
「……あのなあ、静留」
「堪忍、なつき。その呆れ顔でよう分かりましたわ。武田君には悪いどすけど、義理の希望もないみたいやね」
「当たり前だ。何で私がわざわざ……」
「堪忍、堪忍」

ふてくされたような顔をしているなつきと、安堵したかのような晴れやかな笑顔の静留。
対照的だった。

「静留は?」
「え?」
「静留は誰かあげたい奴はいないのか?」


なつきがそう訊ねると、一瞬にして空気が張りつめる。


「あ、ビタースウィートやて。知ってはる? これ植物の名前の意味もあるんよ」
静留は“Bitter Sweet”と記された、チョコの包装紙を見せつけ、質問とは全く関係のない答えを出す。
「花言葉は“真実”。毒草なんやけど薬用に使えますから、ピッタリどすなぁ」
「それは奥が深いなぁ」
「本まどすなぁ」


いつの間にか張りつめた空気は和らいでいた。


「……で、誰なんだ? 渡す相手は」
「もう、いけずやねぇ。そんな相手いたら、うち今頃ここにいませんわ」
静留は包装紙をクシャッ、と丸めると、チョコを食べ尽くして空になった箱に投げ入れた。
「それは生徒会の仕事を放棄してまで渡しに行くということか」
「そうどすなぁ。想いを告げるには絶好の日ぃやさかい、ね」
「なるほど。珠洲城にどやされる覚悟は、ちゃんとあるってわけだ」
二人して無邪気に笑った。



「さて、そろそろ私は調べものをさせてもらう」
なつきはパイプ椅子から立ち上がると、パソコンがある席へと移動し始める。
静留は何故だか、その後ろ姿を、一人留守番に残された子供のような顔をして見つめていた。


ガラッ!!


突然勢いよく開かれた扉。
静留となつきが驚く間もなく目を向けると、そこには噂をしたばかりの人物が居た。

「……あら、武田君。おいでやす」
「ああ藤乃、すまない。ちょっと玖我に用があって」

余程なつきを探し回っていたのか、真冬だというのに武田の額には汗が滲んでいる。

「……何の用だ」
移動途中のなつきは、ちょうど武田と向かい合わせになるような形で止まっていた。
何を警戒しているのか、表情は妙に険しい。

「く、玖我! あの……きょ、今日はバレンタインじゃないか? 外国では男から女へ花を贈るらしくて……それで!」
バッ! と、今まで背中に隠されていた右腕が勢いよく差し出された先には、真っ赤なバラの花束が鮮やかに存在していた。
白の半透明の紙に包まれ、限りなくバラ色に近いリボンのラッピングは、花が映えるのによく合っている。

「受け取ってくれ!!」

武田はプロポーズでもするかのように、深く下を向き、力強く告げた。

「なっ、何をいきなりお前は……ここは日本だ!」

なつきは異性から花束を貰ったのが初めてだったせいか、はたまた、いくら日頃興味がない武田が相手でも嬉しかったのか、いつもと対応が違っていた。
すかさず静留はツッコミをいれる。

「何やの、この夫婦漫才は」
「し、静留!!」
なつきは、この日一番の大声をあげ、赤面を晒した。
「め、夫婦……!」
武田は、相変わらず下を向いたままだったが、何やら幸せを噛み締めているような声を出した。
「馬鹿馬鹿しい! 私は帰る。静留、チョコごちそうさま!」
なつきは鞄を手に取ると、バラの花束を受け取ることなく、出て行った。
急いでいながらも律儀にお礼を言うところに、性格が表れている。
「あ、玖我?! 待ってくれ!」
武田はようやく正常な姿勢に戻ると、静留に「じゃあな」と、言い、なつきを追いかけ出て行った。



ひとりになった静留。
体が硬直しているのか、さっきから姿勢が変わらずにいる。


(かなんなぁ……武田君の表情が頭から離れへん……)


「じゃあな」と、言った武田は苦笑しながらも、喜びが全面に出た顔をしていた。
それが増々静留を追いつめる。自分が原因だから、余計に。


(……痛い……)


静留は左手を胸の下辺りにそっとあてた。

相変わらず容赦なく襲う。
ズキズキとチクチクと刺さる、何度訪れても慣れない形のない痛み。
この現象がやってくる度に静留はいつも死にたくなる。
いっそ殺して欲しい、とさえ。
それが無理ならせめて想いを消してほしい。
そうなればすべてが上手くいくだろう。
しかし、それ以上に静留のなつきへの想いは強かった。
だから、生きている。
自分だけを憎んでいれば、それなりに楽しんで過ごせることを静留は十分に理解していた。
だから、生きていける。


(……いつまでも浸ってるわけにはいかへんね)

時計を見ると会議の時間まであとわずかだった。
現実は人の気持ちなどおかまいなしにやってくる。

最早ただのゴミと化した、長机の上に散らばった消耗品を捨てようと、静留はようやくパイプ椅子から立ち上がり、隅に置かれているゴミ箱にキレイサッパリ捨て終えた。
そして、会議には欠かせない資料が保管されている自分の鞄へと向かった。
ゴソゴソと、お目当ての物を探しながら、静留は思わず声を出す。

「本まかなんなぁ……」

整頓された鞄の中から見えたのは、ダークブルーの包装紙。桜の絵が何とも静留らしい。
和柄はバレンタインには不向きかもしれないが、相手が気に入るには申し分ない可愛さだった。

(せっかく作らせてもろたのに)

渡そうと思えば簡単に渡せた。
理由など適当に嘘をつけばいい。
それでも、渡せなかった。


静留の中に、振り払ったはずの痛みが戻ってくる。


……今頃あの二人はどうなっただろう。
明日も普通に接することが出来るだろうか。

考えたくないことが次々と溢れ出して止まらない。


分かっている。
武田を恨むことも、なつきを望むことも間違っている。
そんなことは分かりきっている。しかし……


あと何回、自制すれば許されるのか?


静留は途方に暮れた。
行き着く先はいつもそこだ。少しの期待と多くの絶望。


「今日こそは、あんのぶぶ漬け女をぎゃふんと言わせてやるんだから!」
「それは楽しみだね」
「聞こえちゃうよ、遥ちゃん……」


廊下から遠く、生徒会メンバーの声がした。
(嫌な不意打ちやわ……)
静留は資料を取り出し鞄を荒々しく閉めると、何事もなかったかのように自分の席へと座る。


“頼れる生徒会長、藤乃静留”。
それ以外の顔は決して誰にも知られてはいけない。
いつも心得ていることが、今日は一段と苦痛だ。


用意した資料に目を通す。
そこには、痛みを感情の奥底に封印しながら、凛とした面持ちの静留がいた。
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by cyawasawa | 2006-02-20 21:32 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。


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