沼地。

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『After you』

和ちゃんお誕生日おめでとう!!!!!

和ちゃん視点の唯和SS。








「楽しいねえ、和ちゃん!」

「そうね」と返事をしなかったのは、何度も何度も同じことを言ってくるからだった。
リビングから階段へ移動中に一回、階段を上がっている最中に三回、唯の部屋へと続く廊下を歩いている間にとうとうわからなくなって、ヒラヒラ舞う綿毛のように先を行く唯はいつも以上に陽気に見える。
今日が唯の誕生日ならそうなる気持ちもわかるのだけれど生憎私の誕生日で、珍しく全員揃った平沢家から盛大に祝ってもらったところだった。唯と憂と私の三人で祝うのが当たり前になっていた積年を思うと昔の誕生日パーティーを彷彿とさせる集まりはもちろん楽しい。おばさんの手料理はおいしくて、おじさんからのプレゼントは嬉しくて、唯と憂の手作りショートケーキは装飾の役割を果たす生クリームの形態が部分部分でおかしかったけれど、私のために作ってくれた気持ちだけで充分だった。
そうして楽しい時間はあっという間に過ぎて夜も更ければ名残惜しくも帰らなければならなくて、最後にお礼を告げようとしたら唯に、

「待って! もうちょっとだけ喋ろうよ!」

と、腕を掴まれハの字眉毛の困り顔で止められたのだった。

「和ちゃん、どうぞ」

ホテルの玄関に佇むドアマンを真似ているのだろうか、唯は部屋の扉を開けるなり右腕を中へ向け差し伸べ、左腕は背中へ回していた。そんな紳士的なおもてなしは初めてだったけれど大人しく後をついていただけの私はまた大人しく進むだけで、自分が誕生日ゆえの対応かと考えれば滅多にない唯の姿もなんだか微笑ましくなってくる。

「部屋、片付いてるわね」
「うん、最初から部屋に連れてくる気満々だったからね」
「そうなの?」
「そうなの。散らかってたら和ちゃん、呆れるでしょう。呆れられるのって、ある意味怒られるより恐怖だよ」
「それは良いこと聞いたわ」
「あ、和ちゃんそっちじゃない、こっち」
せっかく整頓された床のクッションに座ろうとしていたのに、いつの間にか壁にもたれてベッドに体育座りをしていた唯に誘導される。ここでもうちょっとだけ喋る以外の何かが明かされるのかと、またも私は大人しく隣に腰掛けた。
「あ、やっぱり寝転んでくれないかな」
枕を指差し促される。いよいよ目的がわからない。
「なんなのよ、一体」
なので、まずは大人しく訊いてみた。
「寝転んでくれたら教えてあげる」
本当に何がそんなに楽しいのか、唯は無邪気に笑うばかりだった。この無邪気さに振り回された過去は数あれど、しかしながら今日は自分の誕生日なのでまあ悪い方へはいかないだろうと、やっぱり私は大人しく寝転ぶのだった。
「素直だね、和ちゃん」
すると、唯は覆いかぶさってきて私を見下ろす体勢になった。耳元では両腕の重みで軋む枕の音がして、今部屋に誰か入ってきたら誤解されかねない有り様になっているのは理解出来た。それにしたって、私の太ももに堂々と座り込んでいる唯は両腕で支える意味はあるのだろうか。
「もしかして、太った?」
「ヒドい! 太ってないよ! え、そんなに重い?」
「重いと言ったらどうする?」
「どうもしないよドーンッ!」
「ちょ、っと」
安易に振り回されないよう、ふいに湧いたイタズラ心も無力に終わった。支えをなくした唯が全身で乗っかってきたからだ。これはさすがに重いかもしれない。おまけに身動きも取れない。
「密着二十四時!」
そう言って埋めていた顔を見せた唯からほのかにシャンプーの香りがしたせいか、あるいは思った以上に顔が近いせいか、
「何よそれ」
と、返すのが遅くなってしまった。
「ふっふっふ、それでは教えてしんぜよう。もうちょっとだけ喋りたかったんじゃなくて、ちょっとぐらい二人っきりで居たかったんだよ」
無邪気に笑う唯。この無邪気さにこれからも振り回される運命なのか、と私は覚悟しかけたけれど、運命なんて大袈裟だ。そもそも振り回されていると感じたことは一度もない。唯は「キャー恥ずかしい」と一人で騒ぎ、再び顔を埋めていた。そうなのよ、私だって恥ずかしい。こんなにくっつかれてこんなに近距離で想いをぶつけられるのは。

「……」
「……」

ふと、間が訪れた。
確かに喋るのが目的ではないのなら、そうなるのは自然だ。けれどもここまでピッタリと、ベッドに寝転んだままという特殊な状況は、いつものように抱き付かれる距離感とは違って感覚を過敏にさせる。例えば唯の呼吸はゆっくりと上下に揺られてつられそうになるし、熱は服越しからでも伝わるほどに温かい。そこにシャンプーとは異なるにおいと存在としての重みまで加わって、ただ静かな部屋。唯と私、二人っきりの部屋。
いっそ時計の秒針音でも聞こえてくれば、意識を逸らせることが出来るのに、残念ながら鳴らないタイプを選んでいたっけ。

「なんか、ドキドキしてきた」

頭の片隅を覗かれたのかと、さっきよりためらって、
「何よそれ」
と、返すのが遅くなってしまった。

「和ちゃんも、ドキドキしてる?」

唯は起き上がり私を見下ろす体勢に戻ると、右耳に髪を掛けながらそう言った。私はまさかの質問をされたことへの戸惑いと、髪を掛ける仕草に色気を感じたことへの後ろめたさが混ざって何も返すことが出来ずにいた。

「で、この後どうする、和ちゃん?」

「何が?」と訊けば全てが分解するのはいくらなんでもわかっている。けれど「何が?」を言いたくなるまでに胸の高鳴りは確実に強さを増していく。
今、私はどんな顔をしているのか。もし、唯と同じだったら。もし、悩ましげにも期待を求めていたら……
私はそっと、唯の右頬に手で触れることから始めた。
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by cyawasawa | 2015-12-26 00:00 | けいおん!! SS(8)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。コス写専用アカ→@cyawa_cossya


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