沼地。

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『マボロシマホウ』

唯お誕生日おめでとう!!!

和ちゃん視点の唯和SS。








シャーペンを走らせる、消しゴムをかける、参考書をめくる、コップを置く、蝉の鳴き声。それらの音だけになって三十分が過ぎた。

どうやら唯は本気だったようだ。
夏期講習が落ち着いたところで提案した勉強会を素直に受け入れたので、何か裏があるのではと疑いが残っていたのだけれど、知らぬ間に自覚が芽生えたのだろうか。
唯にとって先は長い最終学年は今や後が短くなり、受験生という肩書は逃れられない現実で迫り来る。夏期講習が刺激になったと考えれば自然だ。それとも全く関係なくて、三時のおやつを糧に励んでいるからだろうか。前回は洋菓子だったので今回はおいしいと評判の豆餅を選んでみた。個人的に食べてみたかったのもあるけれど、なんにせよ集中力が持続するのは良い傾向だわ。

「ねえ、和ちゃん」

私も課題に集中しようと気合いを入れ直した矢先に声を掛けられる。おやつの時間にはまだ早い。
「何」
筆も止めず顔も上げずに答えた。唯もそうだったから、すぐ終わる会話だと判断して。
「皆と一緒に居ると楽しいよね?」
「そうね」
「じゃあ皆と一緒に居て別れるとき、胸がズキズキしてお腹がギューッて痛くなることある?」
これは一体どういう意図を持った質問なのか。
まず勉強に沿った内容なのか。もしかしてこれが裏なのか。単純に飽きたのか。次々に疑問が押し寄せたけれど、今までの〝歴史〟を振り返ればこういうときは正直に答えることが一番だった。
「ないわね」
「あ、そうなんだ……」
「……」
「……」

会話終了。
また限定された音だけが響いた。単純に飽きたのか? 近そうな答えを当てはめてみても無理やり感が否めない。どこか控えめな様子も気になる。しかし当の本人が続けなかったので、こちらも課題を続けるのみで。

蛍光ペンを走らせる、シャーペンのノックを押す、ノートをめくる、コップに麦茶を注ぐ、蝉の鳴き声。

「ねえ、和ちゃん」

そして、唯の呼ぶ声。
「何」
五分すら経っていないのに同じやり取りが始まった。
「私への誕生日プレゼントって、もう決めた?」
「まだに決まってるでしょう」
「あはは、和ちゃん上手い!」
決して狙ったわけではなくて夏休みの真っ最中に訊かれれば誰だってそう返すと思う。何しろ唯の誕生日まで数ヵ月はあるし、目の前の課題に専念している真っ最中でもあるのだから。

「じゃあ今年はリクエストしていいかな」

筆が止まる。続いていた音が一つ消える。顔を上げれば目が合わさる。先程とは一転したやり取りが始まる。
「どうぞ」
だから私も音を一つ二つ、消して応じた。

「……あのね、皆と一緒に居るのはもちろんすっごく楽しいよ。けど、その後が、楽しければ楽しいほど、別れるときに胸がズキズキしてお腹がギューッて痛くなるの」
たどたどしい話し方。久しく見ていない非調な顔付き。私が知る夏の唯は、もっと煌めいていたはずだ。
「バイバイしたばっかなのに、すぐに会いたくなるんだよ。だからプレゼントは、この迷惑な気持ちを消してほしい」
宿題を写させてほしい。一緒に寝てほしい。これまでのお願いや甘えとは比較にならない望みに少し圧倒される。何故って、私が知る彼女はもっと、溢れんばかりに満ちている人だから。
「無理よ」
「即答!?」
「要するに、さみしいんでしょう?」
「言っちゃった! ハッキリ言っちゃったよ! あーあ、やっぱそうだよねぇ……さみしいんだ、私」
気が抜けたのか、唯はだらりと机に顔を伏せた。緩やかさが戻った場の空気に安堵した。
「さみしさだけなら私も経験あるから無理なのよ」
「えっ、和ちゃんも?」
例えば、誰も居ない生徒会室。業務が終わり一人確認作業を進めていると不意に訪れる物寂しさ。郷愁にも似たこの気持ちは、去年は存在しなかったものだ。
「三年生にとって感傷に浸るのは当然の出来事じゃないかしら」
「当然かあ、ならよかった。ねえ、どのくらいさみしくなった?」
「一度だけど」
「一度?! そんなバカな!」
唯は勢いよく起き上がり、問いただす言葉を立て続けに捲し立てた。先程までの切実な状況はどこへ行ったのやら。
「まあまあ。麦茶でも飲んで落ち着きなさい」
「これが落ち着いてられますか! 私はさっさと、この気持ちから解放されたいんだよー! じゃないと受験勉強にも集中でーきーなーいーーー!」
「最初からこっちが本命だったくせに」
「あ、バレちゃった、テヘ! でさ~、どうやってさみしさから解放されたの? 教えてくださいよ~」
隣にやって来たかと思えば、腕を人差し指で突かれる。なのに正座で座っているもんだから真面目なのか不真面目なのか。ともかくこのままでは永遠に突かれそうなので、やっぱり正直に答えるしかない。
「結局自分でどうにかするのが最善策としか言えないわね。人に生じた気持ちを消すだなんて、魔法でも使わない限り無理。もし私が消せたとしても一時しのぎになるだけよ。そういうわけで、頑張って折り合いを付けて」
腕への刺激が、ふとなくなる。突き放すような言い方になったかもしれない。私は付け足す言葉を手繰り寄せたが、
「そっか、わかった」
正しく素直な、受け入れた返事をされて留まった。
「やけに素直じゃない」
「私も、そろそろ大人ですから?」
必要以上にくっついてきたかと思えば、突きから抱き付きへと変わった。足も伸ばしたリラックスな座り方は、真面目さも不真面目さも併せ持ついつもの唯を表しているかに見えた。
「それで、その内さみしい気持ちからは解放されそう?」
「自分でもビックリするぐらいそんな気がする」
「なら、よかった」
「ねえ、もしかして和ちゃんは本当に魔法使いだったりして。話しただけで、気持ちが前より軽くなったよ」


シャーペンを走らせる、消しゴムをかける、参考書をめくる、コップを置く、蛍光ペンを走らせる、シャーペンのノックを押す、ノートをめくる、コップに麦茶を注ぐ、蝉の鳴き声。

「ねえ、和ちゃん」

そして、唯の呼ぶ声。
「何」
筆も止めず顔も上げずに答えた。唯もそうだったから、すぐ終わる会話だと判断して。
「これからもよろしくね」
「……こちらこそ」
今年の誕生日プレゼントからえらく方向転換したなあ、と頬が緩みそうになったのは正直に告白すると照れ隠しが勝っているから。
私が一度のさみしさで済んだのは、唯だけはきっとずっと変わらずに居てくれる結論に行き着いたからだ。それを見透かされたかまでは不明瞭だけれど、つまりは唯も、同じ結論に辿り着いたのではないだろうか。

〝これからもよろしくね〟

もう一度反芻しながら口元を整える。体の内からじんわりと広がっていく温かみを自覚して私は筆を走らせた。
さて、楽しいおやつの時間まであとわずか。
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by cyawasawa | 2015-11-27 00:06 | けいおん!! SS(8)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。


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