沼地。

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『算段と温度』

奈緒ちゃんお誕生日おめでとう!!!

静奈緒SSだよー








「ほな結城さん、行きましょか」
「行かないっつの」
「はあ~~~」
「嫌みったらしいため息つくな!」
「結城さんには拒否権なんてあらしませんえ。だってうちら約束したんやから、あの日あのときあの場所で」
「このあたしがあんたなんかと約束するわけないでしょ! 仮にしててもいちいち覚えてないわ!」
「しゃあないね……ここは体で思い出してもらいましょ」
「はあ!? どけって! 言ってんの!!」

左腕を思いっきり振り上げ、むやみに顔を近付けてくる藤乃を強行突破で引き剥がす。
放課後になって、今日はなんとなくダルいから〝夜遊び〟はやめて大人しく寮へ帰ろうとした結果がコレだ。

ジュリアに乗って森を駆け抜ける爽快な想像をしながら脇道に逸れると、待ち構えていたかのように佇んでいて、あたしはそこでHiMEの正体がバレてもいいからジュリアを呼んでとっとと立ち去るべきだった。気がつけば左腕にガッシリ密着され、身に覚えのないお出かけ先への行く・行かないの無駄な争いを口でも体でも繰り広げることになって今に至る……なんてマヌケな状況。おまけにコイツは予想外に力が強く、わざと利き手じゃない方を狙ったんじゃと恐怖すら覚えた。さすが生徒会長なだけあるわ、と思考がマヨ女なみの低レベルになってきたところで我に返る。

「こっちはあんたに構うほど暇じゃないから」

藤乃静留という存在を見向きもせずに背中を向けて歩き出す。わざわざ声を掛けてあげるあたしはなんて優しいんだ。
「せやからね、結城さんのお誕生日に一緒に過ごすゆうんが、うちへのお礼になるんよ」
懲りずにまた左腕に密着してきた行為はまあいい、歩き続けよう。それより、コイツは一体何を言っちゃってんの? 今までも理解不能な言動は多々あったけど、ここまでイッちゃってんのは前代未聞以上の何かがあるわ。

「マジ意味不明なんだけど」

本当に意味不明だったので素直に声が出た。あたしとコイツの間に存在するわけがない〝素直〟という言葉が事態の異常さを際立たせている。まさかこれも狙ったんじゃと改めて恐怖がやってくる。
「やからね、わる~い殿方から助ける際の交換条件としてね、うちが提示したんよ。最近のことやのにほんまに覚えたぁらへんなんて、うち悲しい」
「……全っ然最近じゃないわ。半年前のことじゃん」

思い出した。
雪がちらつく冬の日。いつものようにムーンフォレストで〝獲物〟を物色していたあたしはいきなり複数人の男に罵声を捲し立てられ追い掛けられた。全く身に覚えのない連中だったけれど、過去に金品を巻き上げた奴らが復讐しに来たらしいことは映画でチンピラ役が言い放ってそうな陳腐なセリフから理解した。
一応、こうならないため巻き上げる際はジュリアの糸で相手の顔を隠す、活動時間は夜限定といった風に配慮はしていたのに大勢の人間が行き交う繁華街で探し当てるなんてなかなかの執念だと思う。それもこれもあたしの美貌が目立つからか、などと走りながら余裕をかましていられたのは路地裏までおびき寄せたらまたジュリアの糸とあたしの爪でとどめを刺せばいいと簡単に行く末が見えたからだ。けれども、その日は雪がちらついていたせいで、濡れたコンクリートの地面とローファーの相性は最悪なもので、あたしとしたことが盛大に滑って転んで……ここから先は思い出したくない。

「ああ、でもわる~いのは結城さんの方やっけ? 何事も程々にしとかんと」
「……」

うるさい。わかったような口利くな。
たまたま通りかかった藤乃にたまたま助けられた。って省略すれば聞こえはいい。でも実際は助けてほしければあたしの誕生日を祝わせろと、あたしを取り囲んだ連中も呆気に取られるむちゃくちゃな提案をしてきやがった。もっと信じられないのは、我が身かわいさで誰もが避けていた大通りの出来事に首を突っ込んできた藤乃に対して一瞬でも見直した自分が居たことだった。だから、思い出したくないんだってば!

「寮部屋でゆっくり過ごすんもええどすなぁ」

いつの間にか目的地が目の前にあった。密着した二人が揃って早歩きで動く様子もさぞかしマヌケな状況だろう。周りに生徒が見当たらないのは不幸中の幸いだった。

さて、残りの不幸をどう切り抜けるか。
そもそも、交換条件は飲んでいなくて合意の約束も交わされちゃいない。痺れを切らした連中の敵意が藤乃に方向転換した矢先に着ていたコートを頭から被せられ、次に視界が明るみになったときには連中は忽然と消えていた。何をしたのか何が起こったのかわからないまま残されたのは「約束、ですえ?」の一言。
一方的なやり取りだったと主張すればあきらめて……くれる単純な奴だったら既にここには居ない。しかも主張したとしてもこっちは弱味を握られたわけだから、そこをつつかれて事あるごとに一生利用される可能性は高い。それなら、大人しく従うことにしてその珍しいあたしの姿に気味悪がってあきらめて……くれる単純な奴だったらとっくにあたしは実行してる。

あーーー! うざったい! マジでなんなの!? じゃあもう、ここは“素直”に一日従っといてキレイサッパリおしまいにする方が時間の無駄にもならないの!? つーか、なんでわざわざコイツは疎まれている相手と一緒に過ごしたがるのよ。それも誕生日指定で。利用するにしたって藤乃にとってさほどメリットはないはず。マジで意味不明。理解不能。常に藤乃に振り回されているマヨ女を大笑いしていたあたし、笑えない!

「わる~いお兄さんよりは、うちと過ごす方が有意義や思いますけど」

反論する気も失せる言い分はしつこく続いた。と、思いきや藤乃はするりと腕から離れ、その場を後にする。やっと解放された! 喜びがものすごい勢いで溢れてくる。しつこく粘った割にはあっけない最後で気味が悪いけれど、だからって、あたしが藤乃に求めることはこれからだって何も無い。結局コイツにとってはあたしもマヨ女も暇潰しにからかうだけの対象なんだろう。

急に疲れを意識して、早くベッドに飛び込みたい。入り口までの階段を重い足取りで進む。学園との距離の近さが売りである帰り道をこんなにも遠く感じたのはここへ来て初めてだった。

「結城さーん、お誕生日おめでとーーー!」

藤乃の大声を聞いたのも初めてだった。
だから、体がわずかに止まったのは声量による驚きであって決してサプライズ寄りの反応に至ったわけじゃない。マジでコイツは何を考えているのかわからない。中に入ったと同時に聞こえたってことはこっちを見ていたのは確かだ。今も見ているかもしれない。
一体何がコイツをそこまでさせるのか。何度コイツに恐怖心を煽られるのか。迷惑極まりない行動の中で、じゃあなんでマヨ女は以前より楽しそうにしているのか、なんで藤乃は助けてくれたのか、なんで一緒に居ようとしたのか、なんで遠回しに誕生日を祝ったのか、と今まで無視していた疑問とそこから繋がる答えのようなものが一気に押し寄せたけど、もちろんどうでもいい。

部屋の扉を開けて、念願のベッドへ飛び込む。布団の柔らかさにうずくまる安心感。あおいも居ない一人の空間は心底落ち着く。今日のこともさっさと忘れてしまおう。

あたしはマヨ女みたいに〝素直〟に振り回されない。何を言っても動じなくて何をどうしたって本心が掴めない藤乃に、他の人間には無い手応えを少しでも得たあたし自身を、あたしは絶対認めない。
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by cyawasawa | 2015-06-13 00:13 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。コス写専用アカ→@cyawa_cossya


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