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沼地。

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『さんかくのしくみ』

和ちゃんお誕生日おめでとう!!!!!

今月中に追記します…唯和憂SSです…
12/31 5:16追記…ほのぼの唯和憂SSです…

誰視点でいこうか悩んだ結果全員分にしましたが和ちゃんだけ長めになりました…









「味、どうかな?」
「うん! すっごくおいしいよ!」
「本当に? 本当に大丈夫?」
「うん! 本当にほんとーーーに、おいしいよっ!」
「はあ、良かった……ありがとう、お姉ちゃん」
「憂は和ちゃんのこととなると慎重だよね~」
「そ、そうかな? だってお姉ちゃん、いっつもおいしいしか言わないんだもん」
「だって、いっつもおいしいんだもん」
「もー!」
「もー!」

クスクスと笑い合ってから、私とお姉ちゃんは出来上がったばかりのケーキと料理をテーブルに並べ始める。
今日は和ちゃんのお誕生日を祝う日だ。本来の日にちは二日前なのだけれど、もう高校生ともなればいつも通りに開催するのは難しくなっていた。それでも毎年三人で祝うのがいつの頃からか決まっていて、ここまで続いているのはスゴいと思う。しかもこの前軽音部の皆さんと純ちゃんを交えたクリスマスパーティーで会ったばかりなのに。「どんなけ仲が良いの?」って驚いていた梓ちゃん、かわいかったなあ。

子供の頃は平沢家と真鍋家が集まって二人のお母さんによる手作りが主だった。けれど、いつの頃からか私が担当するようになり、もちろんお姉ちゃんも何度か手伝ってはくれたものの、いつの頃からか味見専門になった。
私に料理の楽しさを教えてくれたのは和ちゃんの存在が大きい。中学に入ってお父さんとお母さんが留守がちになると、何かと面倒を見てくれたのは和ちゃんだった。だから和ちゃんに食べてもらう際はいつまでたっても緊張感が残る。ちゃんとおいしいかどうか。喜んでもらえるかどうか。特に誕生日みたいな特別な日には失敗なんて許されない。
食べ物の好き嫌いがない独特の好みには長年の付き合いで培った経験が助けてくれる。和ちゃんもお姉ちゃんみたいにいっつもおいしいと言ってくれる。けれど、たまに正直な感想や味付けのアドバイスも教えてくれて、私はそれを聞くのが好きだった。今日はどんな声が聞けるだろう。どんな表情がこぼれるだろう。主役は和ちゃんなのに、はしゃぐ気持ちを抑えきれずに私はせめて口元が緩まないよう注意を払った。



「憂~、こんなもんかな?」
最後のお皿を並べ終わって総料理長である妹に最後の確認をお願いする。
数々の料理、ケーキ、飲み物、グラス、取り皿、お箸にスプーンにフォーク。一人分ならまだしも三人分ともなればテーブルにバランス良く置くのはなかなか難しい。私はどうもその辺の作業が苦手で、その点、憂は得意だから仕上げとして必ず声をかけている。憂はいっつもテキトーでいいよー、って優しく微笑んでくれるけど、せっかくきれいに完成したものを私のせいで台無しにするわけにはいかないから。
「うん、問題ないよ。あとは和ちゃんを待つだけだね」
「はー、和ちゃん早く来ないかなあ! お腹空いたよ~」
しまった、安心してつい本音が出てしまった。主役は和ちゃんなんだからここは「絶対喜んでくれるよね!」みたいなことを言うべきなのに。
「ふふ、お疲れ様。時間になったしすぐ来てくれるよ。お姉ちゃんは座って待ってて」
「憂こそお疲れ様! 毎日おいしいごはん作ってくれてありがとね!?」
ケーキナイフをキッチンまで取りに向かった背中に急いで伝える。憂は少し振り向いて、あの優しい微笑みで返事をしてくれた。

よし! 大人しく待っとこう。さっきより安心して自分の席に座り込む。
今日の献立、じゃなかった、スペシャルメニューはビーフシチューに魚介類のパエリアにミートローフにエビとアボガドのサラダに生ハムを薔薇の形に見立ててその上にきゅうりとマヨネーズを乗せてつまようじが刺さってるやつ! 正式名称がわからないけど、見た目からすごく手間がかかってすごく凝ってるオーラが溢れている。さっすが憂!
そりゃあ私だって出来れば手料理をふるまってあげたいよ。けれど小学校の頃、二人にホットケーキを作ろうとして黒こげになった大惨事は料理への道をあきらめるには充分だった。その分私は和ちゃんへの愛情とプレゼントを考える熱意に注ぐとして、これに関しては誰にも負けない自信があるよ! なんてったってお誕生日の一ヵ月前から、

―――ピンポーン。

「あ、和ちゃん来た!」
「和ちゃん来た!」
呼び鈴が鳴ったと同時に揃って声を上げ、玄関までバタバタと迎えに行く。これから起こる、どうしたって楽しい時間に私の口元は緩みっぱなしだった。



「いらっしゃいませ、和ちゃん!」
扉が開かれると、ビックリ箱から飛び出してきたような勢いで唯と憂が現れた。いつものことながらそのありあまる元気は一体どこからやってくるのか不思議だわ。まあその無邪気さに癒される自分が居るのも確かだけれど。
「おじゃまします」
「どうぞどうぞ! っていうか、鍵してないんだからそのまま入ってくればいいのに、って毎回毎回言ってるのにー」
「一応ね。それにしてもいくら私が到着する時間に合わせてるとはいえ物騒だからやめなさい、って毎回毎回言ってるわよね」
「なんなら、合鍵作っちゃおっか?」
「お、ナイスアイデア、憂!」
「ちょっと……二人して腕にしがみつかれたら歩きにくいんだけど」
靴を脱ぎ三和土から廊下に足を付けた瞬間に二人に挟まれた。
「外、寒かったでしょ? 暖めてあげようと思って!」
「思って!」
「はいはい、どうも」
また無邪気に笑う姉妹に観念して動きにくいながらも階段を上ると、出来たての手料理そのものの香りが漂ってくる。そういえば去年は和食だったから今年は洋食にするって憂が言ってたっけ。
「もしかしてビーフシチュー?」
「うん、そうだよ。隠し味に何か入れようとして結局やめたのがちょっと心残り。でも、お姉ちゃんが味見してくれたから大丈夫!」
「私が味見したから大丈夫です!」
「憂の料理は味見しなくても大丈夫なところまで達してると思うけどね」
「そんな、私なんてまだまだ未熟者だよ……!」
「おや、憂の顔が真っ赤になってますよ真鍋さん」
「の、和ちゃん! 上着と鞄、預かるよっ!」
「ええ、ありがとう」
左腕から離れた憂にそれらを渡すと真っ赤とまではいかないが、ほんのり頬が染まっていた。昔から褒める度に恥ずかしがるのは何故かしら。それもまた癒されるから問題はないのだけれど。

「じゃあ私は和ちゃんをエスコートする!」

密着状態から解放された矢先に今度は唯に手を引かれる。と、思ったら手を離されて一人くるくる回ったりゆらゆら上下左右に揺れ動いたりしている。なんだろう……舞踏会で優雅に踊るお姫様を真似ているのだろうか。エスコートする側だから王子様かもしれない。

「さあ、どうぞ和姫!」

再び手を握られ席に座るよう勧められた。私は、ああ王子様役だったのか、と、妙に納得してから「光栄ですわ王子様」と、テキトーにお礼を合わせて腰掛ける。唯の満足げな様子は置いといて、目の前に広がる料理たちは見事においしそう。ビーフシチューから立ちのぼる湯気はさぞ体が暖まるだろうし、白身魚とムール貝とタコとあさりとレモンが均一に整列したパエリアは華やかだし、ミートローフは私の好みを反映してくれた気遣いが嬉しいし、エビとアボガドのサラダは普段食べないのもあって余計おいしそうだし、生ハムときゅうりのピンチョスは憂の性格が表れている。
どれも彩り豊かで食欲をそそられる。おまけに手作りショートケーキまで用意されている。大粒のイチゴが九個、三等分で割り切れる数で乗っているのは夏に私と唯の間で起こった〝イチゴ事件〟の影響かもしれない。
本当にこのコだけは今すぐお嫁にいってもおかしくないわ……今すぐではなくても、まだまだ私たちの傍に居てほしいと望むのは勝手かしら?

「それじゃあ、始めよっか!」

エプロンを外した憂が席につき、チャッカマンでケーキのロウソクに火を点けていく。数字の一と八だけが真ん中にあるシンプルさが私の仕様。これが唯だと年齢と同じ本数が並び、わざわざ電気も消して、吹き消した後にはクラッカーが鳴り響く。憂だと唯が毎年趣向を凝らした演出をするので決まりはない。平沢姉妹と居ると〝退屈〟なんて言葉は存在しないんじゃないかと錯覚させられる。

「「ハッピバースデートゥーユー! ハッピバースデイトゥーユ~~~!」」

思い出を懐かしんでいたら、お祝いの歌が始まった。こちらは三人共通で毎年恒例となっている。最初は自分の誕生日に手拍子を一緒にするのは気恥ずかしかったけど、いつの頃からかすっかり慣れた。

「「ハッピバースデーディア和ちゃ~ん! ハッピバースデイトゥーユ~~~~~!」」

ありがとうとお礼を告げて盛大な拍手の中でロウソクの火を消した。
しばらく拍手は鳴り止まなかったが、料理が冷めることに気付いた途端に憂は慌ただしくケーキを一旦冷蔵庫へしまいに行き、唯はお茶をコップに注ぎ配っていった。
「それじゃあ、食べよっか!」
憂が戻ってきて早々に唯は早口でそう言って素早く手を合わせた。よっぽどお腹が空いていたのね。
「改めまして和ちゃん、お誕生日おめでとう。今年もお口に合うか心配だけど……愛情だけは惜しまず込めたからね!」
「いつもありがとう。その気持ちだけで充分よ。こちらも愛情込めていただくわ」
「和ちゃんおめでとーーー! いっただっきまーすっ!」
「はい、めしあがれ」
何から食べようか目移りしてしまう。けど、まずは一番手元にあるビーフシチューから口に運ぶ。濃厚なデミグラスソースと赤ワインの酸味がちょうど良い。お肉もやわらかくて味が丁寧に染み込んでいる。これは隠し味なんていらないほどに間違いなく、
「おいしい? 和ちゃん」
憂に視線を移すと右手にスプーンを握ってはいるものの、まだ何も手を付けていないようだった。私の意見なんて大した重要性もないのにいつも緊張した面持ちでいるのも不思議だ。
「正においしいと言おうとしてたとこよ」
「本当!? やったー! はあ~、良かったあ……!」
「良かったねぇ、憂」
「本当においしいわよ。これじゃあもう私が教えることはないわね」
「え?」

あどけなく喜んだ笑顔から一転して眉は下がり、曇りがちの表情になる。突然の変化に戸惑いを覚えたのもつかの間、憂の目からは堰を切ったように涙がボロボロとこぼれ落ちた。

「え!?」
「あー! 和ちゃんが泣かしたー!」

唯の一声で信じ難い光景から確信の現実へ切り替わる。憂の泣き顔は久々だけど、子供のように泣きじゃくる姿は子供のとき以来だし、どう考えても今の流れで涙に繋がる要素が見当たらない。私の頭は〝イチゴ事件〟以上に混乱を極めていた。

「よーしよしよし、どしたの憂~? 和ちゃんは悪いコね~?」
いつの間にか唯は隣で頭を撫でながら宥めている。やはり私が原因なのか。
「うぅ……ごめん、なさい、和ちゃんのお誕生日、なのに、泣いたり、して……」
「もういい無理して喋らないで! いや待って!? この際だから和ちゃんに言いたいこと言っちゃいなよ!!」
「唯はちょっと黙ってて? 憂、ごめんね。私には泣き出した原因が思い当たらないの。何か気に障ることを言ってしまったようだけど」
私も隣で背中をさすりながら質問する。
「違うの和ちゃんは悪くない、の……私がわがままな、だけで……教えることはないって、聞いて……急にさみしくなったの、二人の卒業も、近いから、最後みたいで、ヤだなって……」
「やっぱり和ちゃんが悪いんじゃん!」
「唯、ちょっと?」

なるほど……
今まで意識から遠ざけてどうにか保っていたバランスを私が崩してしまったのね。
しっかり者の憂だけど、実は誰よりも甘えんぼうなのは私と唯が先立って小学校、中学校、高校へ進級する度に羨ましがっていた反応だけで明らか。ただでさえ、私たち三人の間にはいつの頃からか継続している事柄が多く在る。居心地が良いからこそ、成長と共に永遠に続くわけがないと胸騒ぎに駆られるのは私一人じゃなかったということだ。

「こんなに憂に想われて、私たちは幸せものね、唯」
「当然!」
「そして私はこの世で一番の幸せものよ。今年もあなたたちに祝ってもらえて、あなたたちと過ごせて、本当に本当に、嬉しくて楽しいわ。ありがとうね」
「の!? 和ちゃんがデレた……?!」
おどけた唯の耳がみるみる赤くなっていくのがおかしかった。憂もそれに気付いたらしく、ようやく笑みをこぼしてくれる。
「さ、早く食べましょう。せっかくの料理が冷めちゃうわよ?」
ハンカチで涙を拭ってあげるのも随分久々だった。今後、あってはならない方が憂のためだとは理解しているけれど、相手が誰よりも甘えんぼうさんならしょうがない。

きっといつかは離れるときが必ずくる。でも、これからだって三人の形はきっと、ずっと続いていく。「私も憂と和ちゃんが大好きだよー! これからもよろしくねー!」と、いきなり立ち上がり叫び出した唯の告白は距離感を無視した大音量だったけど、じんわりと幸福感で満たされて、私は自分の口元が緩んでいくのがわかった。
by cyawasawa | 2014-12-26 00:00 | けいおん!! SS(8)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。コス写専用アカ→@cyawa_cossya


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