沼地。

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『雨は降らない』

世間は七夕デーの中、梅雨の唯和SS!








「う~ん、和ちゃんはどう思う?  雨、降ると思う? 」
「さあ」
「さあ、って! もっと真面目に答えてよ~」
「唯こそ真面目に勉強しなさいよ」
「う~ん、この絶妙な曇り空は判断が難しいよね」

痛いところを突かれたのか話をそらして、一人、現実逃避に戻る唯。
期末テストが迫って珍しく唯から勉強会をしようと誘いを受けたのに、集中力は教科書三ページ分で切れたようだ。ゆっくり背伸びをした後そのまま背中から床に着地して、デッキの方へゴロゴロと転がっていったと思ったら、横たわりながら空模様を眺め始めて今に至る。
私はそんな気まぐれな後ろ姿を見送ってから教科書に目を通し、ノートに書きとめる往復作業にまた戻る。

「ねえ、和ちゃんはもったいないと思わない? せっかく休みに会ったのにずーっと室内にこもってるんだよ? 憂なんかあずにゃんと一緒にショッピングへ出掛けたんだよ?」
「あんたが勉強しようって言ったんじゃない」
「そうだね、あのときはやる気でいっぱいだった。けれど人の気持ちは常に変わっていくんだよ、この、気まぐれな空のように」
「正に気まぐれを体現してる人が言うと説得力あるわね」
「天気予報では一日中晴れマークだったのに不思議だねぇ。通り雨でもくるのかな」
「さあ」
「また、さあ、って! もっと真剣にかまってよ~」
「こっちは真剣に学んでるとこだから」
「ちぇっ」
あ、静かになった。
さすがの唯も自分が悪いと自覚を持ったのか。それとも、気まぐれで大人しくしているだけなのか。あるいは、次の企みを図っているのかも。なんにせよ今の間に少しでも進めておこう。そうすれば後々、唯に教えるときに円滑に進むから。

「あっめあっめ、ふっれふっれ、のんちゃんが~」
「じゃのめでおっむかい、うっれしっいな~」
「ピッチピッチ、チャップチャップ、ランランラン」

……静かだった時間は教科書一ページ分ぐらいかしら。
ずいぶんと懐かしい童謡と呼び名が聴こえてきたけれど、何故このタイミングでそれを披露したのか意図がわからないし、わからないのはいつものことだから、ここは適度なBGMだと受けとめて放っておこう。

「かっけまっしょ、かばんを、のんちゃんの~」
「あっとから、ゆこゆこ、かねがなる~」
「ピッチピッチ、チャップチャップ、ランランラン」

二番が始まってしまった。まさか、全部歌うつもり?

「あっらあら、のんちゃん、すぶぬれだ~」

そのまさかで、私の無反応も気にせず唯は最終章である五番まで楽しげに歌いあげた。思わず「よく覚えていたわね」と話しかけそうになったけど、集中、集中……

「あっめあっめ、ふっれふっれ、のんちゃんが~」

二周目が始まってしまった。
しかもこっちへ近付いて、いや、ゴロゴロとさっきより速いスピードで転がってきながら。
一体何が目的なんだろう……目的なんて何もないか。歌いたいから歌うだけで、勉強だって、したくないから空を見る。移り気な曇り空より、唯の方がよっぽど自由で無邪気だった。

「ねえ、もう〝のんちゃん〟って呼ばれてないの?」

そうして辿り着いた終着点は私の膝で、頭を乗せて上目遣いにまっすぐ見つめてくるから、放っておくわけにはいかなくなったじゃない。

「ええ。今は普通に〝お姉ちゃん〟」
「ふーん。じゃあ今から〝のんちゃん〟って呼ぼうかな。今日一日限定で」
「その行為に意味はあるの?」
「ないよ? 呼びたいから呼ぶだけ」
「……でしょうね」
「和ちゃんも、久々にゆいちゃん、って呼んでくれていいんだよ?」
「意味のない行為はしません」
「だろうね」
「わかってるならさっさとどいて、」
「ねえ、のんちゃんっ。へへへっ、うふふふふふ」
「自分で言って自分で笑うってどうなのかしら」
「だってぇ~、懐かしくって! 私、弟くんがのんちゃんって呼んだ瞬間に家を飛び出したんだよね!」
「遊びに来たばっかりで雨の中を飛び出したからビックリしたわよ」
「そこで、しっかり傘を持って追いかけて来た辺りが和ちゃんだよね……」
「濡れる被害が最小限に済んで良かったじゃない」
「そうだけどぉ。ねえ、なんで飛び出したか気にならない?」
「気になるも何も、あまりにのんちゃん呼びが可愛かったから勢いで、とか意味不明なこと言ってなかったっけ」
「う。よく覚えてたね、って違うよ! 私にとっては和ちゃん呼びが普通だったから、のんちゃん呼びは特別な感じがしてうらやましかったんだよ、身近な弟妹の立場がさ」
「そうだったの?」
「あの頃は私が一番、和ちゃんにとって身近な存在だって妙な自信があったから。当時はよくわからなかったけど……まあ私も大人になったってことなのですよ、色々と」
「大人だったら今すぐ私の膝から離れて勉強したらどうかしら」
「それはやだ。この膝、居心地良過ぎだし」
「赤点とっても知らないわよ」
「大丈夫だよ、和ちゃんと勉強するから」
「言動と行動がえらく矛盾してるわね」
「よし! やっぱり一日限定はやめて、これからもずっと和ちゃん、って呼ぶことにする!」
「やめる宣言に至るほど呼ばれてないけども」
「なんで私がずっと和ちゃん呼びなのか、気にならない?」
「特には」
「和、って漢字は間違って呼ばれやすいからだよ! かず、とか、わ、とか。こんなにかわいい名前なのに悔しいじゃない。だから、私がたくさん呼んで皆を導いてあげるの」
「効率悪くない?」
「ふう、これだから和ちゃんは。いっつも言葉をそのままとらえて、私の愛の告白に気付かないんだから」
「告白? 今のが? どこが?」
「もういいよ。私は寝るから雨が降ったら起こしてよ」
「むちゃくちゃ言うわね」

そうして瞼を閉じた唯は、進んだ教科書のページを数える間もなく安らかな寝息をたて始める。
犬は寝ているときが一番かわいい、と騒いでいたのは誰だったっけ。一番かどうかは知らないけれど「まあいっか」と許せてしまうぐらいには、確かに。

のんきな寝顔からデッキの窓へと視線を移すと、相変わらずの曇り空。この様子じゃ雨は当分降りそうにない。だからといって、起こさない選択肢はないけれど、やるべき範囲を一通り終わらせるまでは寝かせておこうかしら。

……まったく、唯には甘い自分。

私は、もう一度のんきな寝顔を見送ってから教科書に目を通し、ノートに書きとめる往復作業を再開させた。
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by cyawasawa | 2014-07-07 21:51 | けいおん!! SS(8)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。コス写専用アカ→@cyawa_cossya


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