沼地。

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『長いは無用』

奈緒ちゃんお誕生日おめでとう!!!

今年のおめでとうSSはほのぼの路線を目指しました!
タイトル2秒で決まりました!








一、瀬能あおいの場合

「ねえ、奈緒ちゃんの誕生日って明日だよね」
「……」
「あっ、ヒドい、無視するなんてっ」
「……」
「ねえ、奈緒ちゃんの誕生日って明日だよね? 明日だよね? あ・し・た! だよね~?」
「あーもー! うっさいなあ! 映画鑑賞中は話しかけんなっていっつも言ってるじゃん!」
「だって、かまってほしいんだもーん。奈緒ちゃんだってかまってほしいくせにっ」
「はあ? 勘違いも甚だしいわ。しかもさっきから重いんだってば、早くどいて」
「ねえ、奈緒ちゃんの誕生日って明日だよね」
「……」

ずっとレンタル中だったDVDをせっかく借りれたっていうのに、あおいのせいで少しも楽しめずにいる。
どうしても一緒に観たいって言うからおとなしくすることを条件に隣に座ることを許したのに、開始五分もすればあたしの肩に寄り添ってきたり無理やり膝に頭を乗せて寝転んできたり、とにかく邪魔をしてきた。それでも、一応は静かにしていたもんだからその内飽きるだろうと相手にしなかったら、今度は背中に背中を合わせてどっしりと体重までかけてきてついには最大のタブーまで犯したんだ。
実は過去にこういう妨害行為は何度もあった。その度にイラついたけれど、その際の内容といえば、今日の晩御飯はどうするだとか教科書どこにあるか知らないだとか、一言の返事ですぐ済むものだったからなんとか我慢はできた。
でも、今回は今までとはくらべものにならないほどうっとうしいというか、どうでもいいというか、なんというか……無視が最適と勘が働いて従った割にはあおいの持ち前のマイペースさで無駄に終わってしまって、しつこい尋問を受けている気分だ。ったく、誕生日なんてサッパリ忘れていたっての。

「まだ無視するの? 映画と私、どっちが大事なの?」
「……」

加えて、なんて、めんどくさい。
あたしは返事をする代わりに無言でリモコンの巻き戻しボタンを押した。
「まあいいや」
途端に背中にあった負担が軽くなる。やっと解放されたと喜んだのもつかの間、遠ざかった足音は数秒で元の位置に戻ってきた。
「私、これから明日の夜遅くまで出掛けるからさ、奈緒ちゃんの誕生日ゆっくり祝えないんだよね。だから、先にプレゼント渡しておくね。お誕生日おめでとう」
突然目の前に降りてきた紙袋はあおいらしいメルヘンチックなデザインだった。つーか、最初から観る気なかったんじゃん! 振り回されている感じが気に入らない。反射的に手で払うと、
「またまた素直じゃないんだから。今のは〝あおいがそこまでする必要ないし。でも嬉しいよ、ありがとう〟って意味だよね」
めげずにあおいはそれを机の上に着地させた。
「勝手な解釈するな!」
「さあて、出掛ける準備しなきゃ。何着てこっかなー?」
急いでそれをつかみ取り後ろを振り向くと、姿はとっくに消えていた。
「ちょっと! どうしろってのよ、これ!」
右手に取り残されたプレゼントが、過去にあったどんな妨害行為よりも邪魔な存在になっている。そんな中でも巻き戻していたことをふいに思い出したあたしは、とりあえず目先の娯楽に集中しようと再生ボタンを押した。
よし。何もなかった、見なかった、起きなかった。そういう結論にしておこう。


二、藤乃静留の場合

「ふぁ~あ……」
眠い。あくびが絶えない。
一夜明けてもあの映画は〝最悪〟以外の言葉が出てこない。念願だったのに、百八十分以上もあったってのに〝最悪〟だったんだ。その残念さが増々眠気をかき立てて、朝から授業をサボりたくなってくる。こんなときは寮から学校への近さが心底ダルくなる。けれど、もっとダルいのはいつの間にかあたしの跡をつけているかのようなアイツの気配。
「なんか用? 藤乃」
「あら、鋭いなあ、結城さん」
「そりゃあんたぐらいでしょ、ここまでふざけた行動を起こすのは」
試しに止まってみたなら、向こうの足取りも止まったまま。動き出せば、同じく動く。これが命なら間髪入れずに抱き付いてくるし、タコ頭ならあからさまに避けてくる。あたしの限られた人間関係で他に当てはまる人物といえばコイツしかいない。

「で、なんか用?」

コイツだけは無視してもあおいのように時間稼ぎにもならない。短い付き合いの中でつかみどころのなさは充分に理解していた。とっとと面倒を片付けるには再度質問をぶつけて話を進め、そこからどうにか対処するしか道はない。
「結城さん、今日お誕生日ですやろ。せやから跡つけよ思いまして」
「全く意味わかんないんだけど、何? ストーカー?」
「イヤやわぁ、ストーカーなんて人聞きの悪い。うちは生徒会長として朝からサボろうとする生徒をほっとかれへんだけです」
「……それならマヨ女でもストーカーすれば?」
「なんでなつきが出てくるん? もしかして妬いてはるん? 心配せんでもうちは結城さんのことも大好きどすえ」
「キモッ! さっさと消えろ、ストーカー女!」
たまにコイツの鋭さはシャレにならないんだよ。
つかみどころのなさは本日も絶好調でジュリアを呼びたくなったけど、むやみにHiMEの正体を明かすわけにはいかないし、ここでサボッたらコイツの思い通りになったみたいで癪に障る。あたしは今できる限りの手段として早歩きで中等部への入り口を目指した。
「ああ、良かった。学校ちゃんと行かはるんやね。ついでに放課後にでも生徒会室に来てくれはったら嬉しおす」
誰が行くか!、とは言わず、背後で小さくなっていく声に安堵して教室まではのんびり足を運ぶことができた。結局思い通りに振り回された気がするけど、これ以上顔を合わさなくなるならそれでいい。かったるい授業もアイツの相手をするよりかはまだマシだ。
そう自分を納得させて、次々に挨拶をしてくるクラスのバカ男どもに愛想を振りまきながら席に着く。
よし。何もなかった、見なかった、起きなかった。そういう結論にしておこう。


三、玖我なつきの場合

「乗れ」

放課後になって解放感に浸りつつ病院に寄ろうと正門から出たら、ヘルメットを差し出すマヨ女が現れた。
傍にバイクが停めてあって「乗れ」が示す意味は理解できたけれど、もう言いたいことと関わりたくない気持ちがあり過ぎて今すぐこの場を離れたい。無視だ、無視。
即決してスルーしたら、向こうも無言で腕をつかんできた! なんなのよ一体!? あたしも無言で抵抗してみるけれど、残念ながら単純な腕力では敵わなくてズルズルとマヨ女が引っ張る方へと連れ去られてしまう。周りの生徒は見て見ぬふりをするだけであたしとマヨ女の悪評を考えると、まあ順当な反応だった。なんて、冷静に判断してる場合じゃない。気が付けばヘルメットを装着させられていて、もちろん抵抗は続けているものの未だ成果は得られない。

「乗れ」

また短い言葉を発するだけの仏頂面にいい加減イライラが頂点に達したあたしはヘルメットを勢いよく脱ぎ地面に投げ捨てた。
「ふざけんな! こっちは遊びに付き合ってられるほど暇じゃないんだよ!!」
クリアになった視界から正面に佇む相手を睨みかけると、てっきり激しい言い争いが始まるかと臨戦態勢でいたのに、マヨ女は何かを探るような表情をしたかと思えば、ガン!、と音を立てマヌケに転がっていったヘルメットを拾いに行く。この時点で調子が狂うってのに次に発した言葉はあたしを増々混乱させた。
「突然ですまない。ふざけているわけではなくて……頼む、乗ってくれないか」
懲りずにヘルメットを差し出される。
……マジでなんなのよ、今日という日は。あのマヨ女が急にしおらしくなってあたしに頼みごとをするなんて。ストーカー女の手先か? それとも騙すための演技? はたまた新型のオーファン? いや、ちょっと待てよ。

———この珍しい姿は、後々〝弱み〟として利用できるかもしれない。

ヤバい、あたし、賢い!
精神的に追い詰められるマヨ女を想像してみたら、ものすごく滑稽で愉快だわ。元々、口では頭の回転が速いあたしの方が有利だったし、バイクに乗るだけで切り札を手に入れられるなら儲けじゃん? 変なことしてきやがったら自慢の爪で反撃すりゃいいんだし。
「……わかったわよ」
だから、あたしは受け入れたフリをして控えめに答えた。
「そうか! よし、乗れ!」
なのに、マヨ女は見たこともない笑顔で答えた。
へえ、こういう風に笑うんだ。なんか、犬っぽい……じゃなくて! コイツの笑顔なんてどうでもいいっての!
「しっかりつかまれよ。それが一番安全なんだ」
は?
つかまれって、つまり、あんたの腰に抱き付けってこと? 無理! やっぱ降りる!、って拒否したつもりがエンジン音にかき消され、あたしは嫌でもしっかりつかまることとなった。
よし。何もなかった、見なかった、起きなかった。そういう結論にしておこう。


四、続・瀬能あおいの場合

あー疲れた……早くベッドに横になりたい……
まさか、往復二時間もかけたツーリングをするとは予想外だった。それより予想外だったのは、また見たこともない優しい笑みで「綺麗な景色だろ。お前に見せたかったんだ」とかなんとか、隠れスポットらしい崖から輝く夕陽をお披露目されたことで、最早マヨ女の不気味なロマンチックさとかお尻の痛さとか腰に抱き付いた情けなさとか気にならなくなるぐらいに二人っきりで無意味なひとときを過ごした事実が一番キツい。
おかげさまで面会時間は短くなるし、なんなの、マジで。今日、厄日?
そりゃまあ夕陽は綺麗だったしジュリアに乗ったときとは異なるスピード感は爽快で……いや違う波にのまれるな、あたし。うん、相当疲れてる。ここは着替えてソッコーで寝よう。

「改めてお誕生日おめでとーう! 奈緒ちゃんっ!」

扉を開けた瞬間、馴染んだ声と懐かしい音がけたたましく響いた。
「あれ? 奈緒ちゃん止まってる? いくらサプライズとはいえ、いきなりクラッカーはビックリさせちゃったかな……ごめんね」
そうだ、クラッカー。
その音はママが元気だった頃、毎年誕生日になると家族で鳴らしていたものだ。あの紐をひくタイミングがこわくて、中身が飛び出す仕掛けが好きで、火薬のにおいが苦手だった、子供の頃の思い出……に、浸っている場合じゃない!
「昨日からそんなに怒らせたいわけ!? つーか、出掛けたんじゃなかったの!?」
「あ、動いた。だから、サプライズって言ったでしょ。出掛けるのは奈緒ちゃんをビックリさせるための嘘、じゃなくて演出だよ」
「はあ~!?」
「だ・か・ら。サプライズだってば。ほらほら、こっち来てみなよ~、ケーキもごちそうもあるよ! お腹減ってるでしょ?」
「見て見て! これ全部私が作ったの! 舞衣ちゃんにレシピ教えてもらったんだー、すごいでしょ~!」
「でね、ほんとは命ちゃんや皆も誘ったんだけど都合が悪くてね、もっと早めに誘っておくべきだったよ。それだけが唯一あおいさんの失敗! えへへ」
「そういえば、会長さんからプレゼント預かってるよ。って、奈緒ちゃんさっきからだんまりじゃん。どしたの?」

ああ、だから放課後に「中等部三年G組の結城奈緒さん、至急、生徒会室までお越しください」って悪ふざけが過ぎる藤乃の校内アナウンスが連続して流れたのか……

あおい一人でどんどん進行していく話の中でそれだけが把握できたけど、できたところで何回目のどうでもいい内容だろう。疲れが際限なく増殖していってる気がする。もし、あたしが帰らなかったらあおいはどうしてたんだろう。のんきに手をひっぱって特等席に座らせてくれちゃってるけどさ。バッカじゃない? 何好き勝手に浮かれてんの? そんな暇あったら街に出掛けて男をつくれ! 大体あたしがこんなガキっぽいお遊びに喜ぶとでも?
「もしも~し? 奈緒ちゃ~ん?」
怒りとか呆れとかごちゃこちゃした感情が渦巻いてきたけど、なんだか頭まで痛くなってきた気がして、こうなったら素直に認めてしまおう。それが手っ取り早いはず。
「はいはいわかったわよ、ありがとう! これで満足? あたしはもう寝るから、」
「ダメ! 今夜は寝かせない!」
「いちいちワケわかんないこと言うのやめてくんない……」
「はい、あ~ん。お誕生日だから食べさせてあげる」
「自分で食べるわ!」
「嬉しいなあ、食べてくれるんだ」
「?! 違う、今のは」
「私のオススメはさっくり揚がったエビフライ! あ、でもこっちの舞衣ちゃん特製ハンバーグもおいしいよ。あとはね~、」
もしや、あたしの最強の敵ってあおいなんじゃ……
今まで意識してなかったルームメイトという近しいポジションにじわじわと恐怖を感じてきた。けれど、藤乃やマヨ女に抱く緊迫感とは無縁にあるあおいは、あたしの限られた人間関係で貴重な人物かもしれなかった。
単に料理から漂う香りに惑わされてるだけかもしれない。けれど、お腹は急激に減ってきて、我慢できないのも確かだ。
よし。何もなかった、見なかった、起きなかった。そういう結論にしておいて、素直にいただくことにしよう。食べ物に罪はないんだし。

それから、女二人で完食するには到底不可能な量を限界までたいらげて、これで一人になれると胸を撫で下ろしたら今度はゲームをやろうと一体どこに隠してたのか、トランプやら人生ゲームやらオセロやら目を輝かせて運んでくるあおいに誰の誕生日なのか問いたくなってきて……
「さあ奈緒ちゃんっ、どれからやる?」
なのに、楽しそうなあおいを見るのは何故だか悪い気はしなかった。きっと、お腹がふくれたからだ。それで心に余裕ができただけ———。
あたしは記憶の片隅にとどまっていた子供の頃の思い出を今一度、一瞬だけ思い浮かべて、あおいの向かい合わせに座り込む。そうこなくっちゃ、と聞こえてきた余計な一言を遮るように、並べられた数あるゲームから懐かしさが残るトランプを手にした。

はあ、ったく……とんだ長い一日だわ!
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by cyawasawa | 2014-06-13 00:00 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。


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