沼地。

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『瓦礫を渡る空』

なつきお誕生日おめでとう!!!

なつき中等部時代SSです。
去年と同じく本来学校は時期的に夏休み真っ最中ですが、その辺はスルーしてやって下さい。








「……で、つまり今回の件は私には何も分からないんですよ」
「ふん、お前の分からないは一番信用出来んな」
「そうですねぇ。まあ、しばらくは進展がないと思われます。久々にゆっくりなされたらどうです? それに今日はあなたのお誕生日でしょう」
「だからどうした。子供じゃあるまいし」
「そうだ、私が手塩にかけて育ててきた花を差し上げ」
「また来る」
「やれやれ……つれない方だ」

おおよそ傍目から聞くと一教師と一生徒には不釣り合いな会話を終えると同時にベルが響く。

(へえ、今日なんや)
静留は視界に映る木々の葉を眺めながら目を丸くした。偶然にも聞こえてきた声は内容はさっぱりだったが、全く繋がりが無さそうな二人が秘密を共有している、そんな不可解な雰囲気に嫌悪を抱いた矢先に今最も気になる相手の情報をつかんだのだ。そうなると、この気怠い時間も捨てたものではないと胸の内が軽くなった。

「静留お姉さま、そろそろ教室に戻らないと」
「え? ああ、そうやね」

ベルはとっくに鳴り終わっている。喧噪から一転した静けさの中、少女は絡めていた体から名残惜しそうに離れると制服の乱れをいそいそと直し始めた。
「さっきの、なんだったんでしょうね。先生に向かってお前呼ばわりだなんて。一体どこの不良かしら」
「不良なぁ……さあ、なんやろね」
「なんですか、その意味深な笑み。もしかして、あんな不良まで相手に……」
「そないなことより、これ。やってくれはる?」
むくりと仰向けの体勢から起き上がり、しっかりとした笑顔でカッターシャツを指し示す。ボタンはいくつか開けられていて柔らかな素肌と伝う汗が垣間見えた。
「もう、静留お姉さまったら」
先程の怪訝的な表情とは打って変わって機嫌が戻ると、自分を労わるより丁寧に手をかけていく。タイを結ばれたところで頬に何か当たった感触があったが、静留は気にかけることも無く地面に生え広がる草を虚ろに見つめた。
(あの子はあんたらなんかとは比べもんにならへんし、うちなんかと違うて退廃的なこともあらへん。ほんま、ええ加減にして欲しいわ)


玖我なつき。中等部三年。花が嫌い。一人を好む。誕生日は今日。これが今知っている彼女の全て。
(やっぱり、おめでとう言うんは不自然やね。その前に“何故知っている?!”って怒らはって増々避けられ……あかん、それだけはあきませんえ)

こちらから話しかけて早数ヶ月。最近になってやっと世間話をするまでに進展した。初めは睨まれたり無視されたりため息をつかれたり、まるでいつまでたっても警戒心が解けない野生動物のようで、いつもなら単純明快な人付き合いもなつきの前では自らの過去の“実績”に疑問を抱くほどだった。
(思い出しますなぁ。仏頂面から呆れ顔で笑わはったときの可愛らしさ)
ここに至るまでの経緯。これからの歩み。静留にとってはどちらも欠かせないものだ。
(……せやけど、ほっとけへんなぁ)
うーん、と唸っている間にいつもの場所に着く。学園の敷地内にはいくつか森が存在しており人目がつきにくいのもあってなつきはよく利用していた。もちろん疎ましがられた時期もあったが、今となっては存在を諦めてくれたようだった。

「なーつーきっ」
「またお前か」
「つれへんなぁ。携帯ばっかいじってんとたまにはこっち向いてほしいわ」
隣に座り込む。草が足にちくちくと刺さる。
「迫水にも言われたが、なんなんだお前らは。私に期待するぐらいなら他をあたれ」
「そら迫水せんせと気ぃ合いそうやね。なつき、仲ええのん?」
「はあ?」
「誰かの名前が出るなんて初めてやさかい」
「……補習の件で口うるさいだけだ。気持ち悪いことを言うな」
「それは失礼しました」
(なんやの今の“しまった”みたいな顔。絶対なんかあらはるやん。まあうちかて盗み聞きしたみたいな立場になってしもたし、なんもゆえんけど)
「……」
「……」
「……」
「……」
「……おい」
「はい?」
「あまりこっちを見るな」
「だってなつきがずうっと携帯見たはるから」
いつの間にか静留はなつきの正面へと移動していた。それでもなつきはびくともせず、険しい顔で画面に集中している。事情を知らない外野が見たら新しい遊びなのかと錯覚しそうな不思議な距離感だった。
「私は忙しい」
「うちも、なつき見るんで忙しい」
「……」
「……」
結局この日はお互いの目線が合うことはなく別れた。


(はあ、今日も幸せどした)
あのようなやり取りが出来る度に静留はそれを噛み締めた。そして、あのとき、あの花畑で思い切って声をかけて良かった、と何度も思い出す。それでもまだまだ知らないことばかりで置いていかれそうな余韻は胸が張り裂けそうになる。迫水との関係性、なつきが背負っているもの、好きな色や好きな季節、誕生日でさえたまたま知ったものだった。少しずつ近付けている実感がある一方で本当に近付けているのか、もしかしてこのままで終わるのか、不安要素は常に纏わりついてくる。

(ほんま、積み重ねていくしかあらへんなあ)

鞄の隙間から覗く青い包装紙。嫌でも視界に入るその色は、どんなに深く青い空よりも強く目に残った。
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by cyawasawa | 2011-08-15 00:00 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。


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