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沼地。

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『王座と名月』

なつきお誕生日おめでとうなつき視点SS!
最初は6〜8Pぐらいのラクガキ漫画だったけど途中「これはSSの方がいいな」って路線変更してみたら煮詰まっちゃって案の定遅れたよね。

本来学校は時期的に夏休み真っ最中なんでしょうけど、その辺はスルーしてやって下さい。








「ほな今回は、なつきが欲しいて言わはったもんをプレゼントしますわ」
「え?」

今まで何回こういった突拍子もない発言に戸惑わされてきただろう。藤乃静留という人間は出会った頃からそうだった。
「私は別にいらないんだが」
「またそないなこと言うて。あかんえ。それにうちだけ貰ったまんまなんはおかしな話どすやろ?」
「静留には世話になってるからな」
「とにかく! あと三日! 誕生日前日までに教えてや! 絶対!!」
「あ、ああ」
思わず容認してしまう。
“絶対”だなんて、学園の代表的存在がまるで駄々をこねる子供のようで意外だった。
それもあったが、静留がムキになる姿をみせたのは久々じゃないだろうか。
楽しみに待ってますさかい———生徒会室には私と、明らかに楽しんでいる声色の余韻だけが残された。


———三日後———


(暑いな……)
容赦なく照らす夏の日差し。木陰を利用してもじわじわと汗が滲むのを感じる。すぐにでもクーラーが効いた室内で涼みたい。しかし、歩かずにはいられなかった。昼休みである今が終わるとあとは放課後まで余裕がない。理不尽な期限は刻一刻と迫っている。
(私の欲しいもの……か)
やっぱりいらない、気持ちだけでいい、無難にケーキにしておこうか。
何度も何個も考えた。その度に相手の一枚上手の返事がはっきりと思い浮かんだ。
ああ、また思考が振り出しに戻る。
新作の下着やマヨネーズセットはすでに貰ったことがある。犬……はお互いに無理がある。
実用的で助かるのは一番地の情報。未だ判明しない他のHiMEたちの正体。そして、母さんの……

そう、結局は“そこ”に辿り着く。

私が欲しいものなんて実際は話にならないぐらい単純だ。
それなのにあいつの要求はいつも事態を複雑化させた。すでに答えが出ているものに対してさらに深みを追い求める。私には理解が出来ない好奇心。何故、静留はそうなのか。私にどうしてほしいのか。何故、誕生日なんて過去の情景にまで踏み込んでくるのか。

(ここは……)
気が付けばあいつと出会った場所に足を踏み入れていた。さすがにこの暑さのせいか誰も居ない。

———綺麗な花は愛でるもんどす———

(出会いというよりは問題児が優等生に叱られたという感じだったが)
思い出して口元が和らぐ。ごまかすために額の汗を軽く拭い、辺りを見回す。
青々とした木々、色鮮やさを放つ花、自然を行き交う虫の音。昔は不快の対象にしかならなかったものたち。それがいつの間にか薄れていき、あの頃の怒りや焦りや憤り、そういった不安定な感情さえも懐かしむことが出来ている。
「………」
私は薄桃色の花びらに手を伸ばす。
「うん、確かに綺麗な花だ」
今は素直にそう思う。


———放課後———


(先に来ていたか)
生徒会室の外側の扉から中を覗くと、すでに静留が待機していた。
ただ待つだけじゃなく、プリント類やファイルを手に取り真剣に眺めている。きっと会長としての責務だろう。一瞬入るのを躊躇したが、ここで逃げても先はみえている。ならば、さっさと公表した方がいい。
心無しか大人しく扉を開けると静留は手を止め、こちらを振り向き、待ち構えてましたと言わんばかりに目を細めた。私は扉を閉め、向かい合う形で近くにある長机に腰掛ける。

「決まりました?」
日頃から余裕に溢れているが、このときばかりは一国の主かのような貫禄があった。
「ああ、決まった」
私は主に責め立てられ怯えるだけの家臣みたくはなるまいと、気丈に返答した。
「ほな、改めて訊かせてもらいます。なつきの欲しいもんはなんどす?」
「私の欲しいものは……」
「欲しいものは?」
「ない」
「ない?」
「いや、ないというか、欲しいもの、というか。これが欲しいものに値するのかどうか……」
「うちはなつきのことやったらなんでも受け止めさせてもらいますえ」
おなじみのふざけた調子がありがたかった。少し笑ってから呼吸を整える。
「静留には、これからも私の誕生日を覚えていて欲しい。プレゼントや祝いの言葉はいらない。覚えていてくれるだけでいい」
「なるほどなぁ、そうきはりましたか……理由、訊いてもええ?」
「……昼休みに、たまたま花園へ行ったんだ。自分が夏生まれなのが信じられないぐらい暑かったよ。静留は覚えてるか? 私たちが初めて出会ったときのことを」
よぅ覚えてます、と言いたげに静留は微笑みながら頷いた。

「私はずっと疑問だった。お前がわざわざ祝ってくれたり、そもそも話しかけてくれたことが。あの頃の私には人との関わりも温もりの象徴も、煩わしいだけだった。時間の無駄だと思ったし、突き放そうともした。それが今では花を愛でることも、景色という当たり前の変化も楽しめている。誕生日なんて本当にどうでもよかった。過去を思い出して後悔するだけだった。でも、今日やっと分かったよ。お前がやってくれていることは私が失ったものの全てなんだ。自分には必要ない、二度と訪れないと諦めていたものなんだ。結局私は自ら遠ざけていたものに支えられていた。だから、お前だけがその日を覚えていてくれることは、何よりも心強い元となるんだ。今までありがとう、静留。そして、これからも………それじゃ、だめか?」

言い終えたと同時に心臓が速く脈打ち始めた。
こんなにも独りよがりで正直な気持ちを誰かにぶつけたのは初めてだった。
今、静留はどんな顔をしているだろう。いつから目を合わさずに話していたのか見当もつかない。ただ、足音がゆっくりと近付いてきて、私は何かを覚悟した。
「色々言いたいことはありますけど……」
ふいに切り開かれた言葉に反射して顔を上げる。良かった、いつもの静留だ。しかし、後に続く言葉が読めない。私も何をどう言えばいいのか、うるさい動悸に対応するだけで精一杯だった。

「なつきは、ずるいお人やね」
「え?」

困った笑顔で抱き締められた。
今まで何回こういった突拍子もない発言に戸惑わされてきただろう。藤乃静留という人間は出会った頃からそうだった。だから、私は———

片手で静留を抱き締めた。
by cyawasawa | 2010-08-27 00:00 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。コス写専用アカ→@cyawa_cossya


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