沼地。

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『空間地』

静留お誕生日おめでとうSS。
やっぱりあんまりめでたくないかもしれないけれど、やっぱり私はこういう二人が好きなんですねSS。








「相変わらず……どすなぁ」

扉が開かれ中へ入ると、目を疑う光景があった。

「開口一番がそれか」
「失礼しました、お邪魔します」
静留は背後で鍵が閉められた音を確認すると、振り向いた家主に軽くお辞儀をした。
「そういうことじゃなくてだな」
「せやかて、この前なつき、掃除したぁて言うたはりませんでした? なんや、前来たときよりひどなってますような……」
「近頃は外に出る用事が多くてな。気が付いたらこの有り様だ。と、言っても私には違いがよく分からないが」
「ゴミ袋の山がないんが救いやねぇ、せめてもの」
靴を揃えながら小声で言う。
「……前もって散々説明したのに、どうしてもここで過ごしたいと言ったのはどこの誰だ?」
「うちどす〜」
今度は声高らかに応えると、なつきの横に擦り寄い、腕に抱きついた。
「久々になつきん家に行きたかったんやもん。それにここが一番落ち着きますし」
「お前は“知人”が多いからな。生徒会室にあんなに人が居たのは初めて見たぞ」
(そういうことやないんやけどね)
静留は自然に離れたように振る舞うと、なつきが手にしていた袋をテーブルに置き、
「皆可愛らしい子ぉどすわ」
と、袋を見つめながら満足げに、しかしどこか無感動に言った。


白い箱から注意深く解放されたホール型のショートケーキは苺が宝石のように彩られており、二人は歓声に近い声をあげた。
なつきはすぐさま付属のロウソクを付け足し、火をつけ始める。
せっかくだから年齢分の数を、と提案したのはなつきであり、そのせいかはりきっているように見えた。
「うち、なつきに歌うてほしいなぁ」
「何を」
「今日の日のための歌を」
ケーキの中央には“HAPPY BIRTHDAY しずる”と書かれたチョコプレートが飾られている。なつきはそれを一目見るとライターをテーブルの端に置き、
「誕生日おめでとう、静留。さあ、早く消さないとロウがケーキにかかってしまうぞ」
と、いかにも不自然な笑顔で応じた。
「もう、いけずやねぇ」
「いけずはお前だ」
「冗談やて。嬉しいわぁ、本まに……おおきにな」
ロウソクは二度目で綺麗に消えた。
なつきはまた率先してケーキを切り分けたが、どんどんいびつな形状に進化していったので、どうにかして一人あたり分を切り終えると交代をお願いした。結果、店で売られていてもおかしくないほどの綺麗な四分の一サイズのケーキがなつきの皿に、右半分だけ崩れた“ケーキのようなもの”が静留の皿にあった。
「何故お前がそっちなんだ」
申し訳なさそうに自分の皿を譲ろうとするが、
「うちはなつきに切ってもろたほうが嬉しいよ。まぁまだ残りはありますし、そない気にせんとはよ食べましょ。ほな、いただきまぁす」と、気付いたときには右手が所在のない状況になっていたので、ここは大人しくフォークに持ち替え、いただきます、と手を合わせたのだった。

そのとき、聞き慣れた着信音が籠って響く。

一瞬、二人は硬直や緊張を連想させる、およそ今の場には不釣り合いな表情を浮かべたが、お互いの目が合うとお互いを気遣った対応でその場を凌いだ。
なつきは手を伸ばせば届く距離に脱ぎ捨てた制服の上着をつかむと、ポケットの中から音の発信源を取り出し、着信相手を確認した。静留はフォークに刺さった苺を弄んでいる。
「すまない、ちょっと。先に食べていてくれ」
簡潔に伝えるとベランダへ移動する。静留は遠慮がちに後を追ったが、すでにカーテンが閉められた先にはかろうじて明るさを保っている外の状態しかつかめず、それはどんな出来事よりも冬の季節を実感させた。


「まだ食べていなかったのか」
冷たい風の余韻と共に室内に戻ると、片方のコップの中身が少量減っているだけだった。
「うちが外出ればよかったね」
言いながら、なつきの赤くなった両手にそっと触れる。長時間氷水に浸していたような冷たさがあり、静留は増々真剣な面持ちになる。
「大袈裟だな。わざわざ気にすることじゃない」
「そないなこと言われてもねぇ……」
「それより、早くケーキを食べよう」
「そうどすなぁ……」
「……」
「……」
「……手を、離してもらえるとありがたいんだが」
いつの間にか重なり合った両手は、一方からの集中攻撃によってゆっくりとなで続けられていた。
「あら、堪忍な。一生徒を温めなあかんて生徒会長としての使命感が湧きまして」
「本当に大袈裟な奴だ」

揃って笑うと、また“いつも通り”が始まる。
この手のやり取りは今まで付き合ってきた中で築かれたお決まりの戯れだった。しかし、今ばかりは通用しない“何か”があった。空気や雰囲気、あるいは先程あった着信音のせいで。そしてそれは静留の一言で変動する。

「話、大切なことやったんと違います?」
「いや、そんなことは」
「いいですから……ね?」
いつもの有無を言わさず微笑みで応じると、すでに温かくなったなつきの両手を優しく離す。
「………本当にすまない。すぐ戻るから」
「いってらっしゃい。気ぃ付けてな」
なつきは何か言いたげに上着を着ると自分以外の人間に留守を任すなんて初めてのことだったが、迅速に最低限の言葉を残し、バイクのキーを握りしめ、部屋を後にした。


エアコンの音が低く唸る。車のクラクションが遠くに聞こえる。
ひとりになった空間は、途端に静けさと賑やかさを混在させる。
静留はテーブルにあった華やかな飲食物を冷蔵庫に戻してからは、テレビをつけることもなく、ただじっと座って過ごしていた。
(やっぱり久し振りやと恥ずかしぃなぁ)
改めて辺りを見回すと、そこかしこに散乱した服と雑誌があり、どこを見てもなつきを示していた。
(掃除でもしよかしら。少しぐらいやったら……でも、そんなん、やり過ぎやろか?)
背伸びをしながら考える。一体どこまでが友人としての許容範囲なのか。
ふたりで居てもひとりで居ても想いの方向の違いを強く感じた。
(……なんや眠なってきたわ。昨日あんま寝れへんかったさかいに……)
間延びした声を出しながら欠伸を終えると、わざとらしくため息をつく。
(そないなことより。なつきが帰ってきはったらなんて言おかしら。“おかえりなさい、お疲れさん。だいじょぶやった?”……だいじょぶやった、って何が。おかえりなさい、は言いましょか。うん、おかえりなさい、ってええどすな。うちまだなつきに使うたことないし。おかえりなさい、って……)
静留は急にテーブルに両腕を置き、その上に顔をうずくめた。震える肩はしばらく治まることはなかった。


「すまない、静留! 遅くなっ……って、おい? 静留……?」

慌ただしく扉を開くと、そこには目を疑う姿があった。
あの静留が、まるで授業中に堂々と居眠りを行う学生のような体勢をとっている。
冗談かとも思ったが、それなら、いつ帰るかなんて分かるわけがない。
なつきは当然驚いたが、ここに辿り着くまでに様々な思惑に悩まされたことを振り返ると安心した部分もあった。しかし、次にどう対処すべきか頭の中で巡らせなければならなかった。何故ならとっくにケーキを楽しむ時刻は過ぎており、何よりも今日は静留の誕生日だからである。
呼吸を整え、一歩一歩、普段あまり見ることのない背中に近付きながら考える。

(とりあえず起こすとして。起こした後は? “すまない、悪かった”? それとも“大丈夫か?”……大丈夫、って何が。大丈夫なわけないだろう、誕生日にこんな……)

なつきはすっかり名残がなくなった自分の席に座り込むと正面から見据えた。
(寝顔、初めて見るな)
前髪の隙間から覗いた左半分の顔。普段なら絶対に遭遇することがない別の顔。
しばらく見続けていたが、いい加減立ち上がると、側に落ち着く。
「静留」
少し前、静留が両手に触れたときよりも穏やかに、それから不安と配慮を込めて左腕を揺らした。
「ん……」
静留は眩しそうな顔つきをすると一旦なつきを見てから再び目をつぶり、顔をうずめ、そこからゆっくりと起き上がった。両腕が痺れているのか上手く動かせないようで、片腕を片腕で支えながら交互に伸びをする。なつきは頃合いを見計らい、口を開く。
「遅くなってすまない……いや、そもそも行ってしまったことが間違いだった」
なつきは、これ以上もないくらいに重苦しい空気を感じており、言うべき内容が限られていることは、より一層深みを増した。

「ごめん……」

さて、どんなことを言われるのか。怒られても責められても当たり前のことをした。覚悟はしていても謝り終えると静留を直視することが出来ない。初めて見る顔がまた新たに追加されるかもしれなかった。

「なつき、おかえりなさい」
「……え?」

ところが予想とは全く異なる反応で、思わず顔を上げる。すると、確かにいつもの微笑みで、最初から何もなかったのかと錯覚させるほどいつもの静留で、全てを否定した感情は一気に戸惑いへと変化した。このときになって、なつきはようやく理解し、懐かしい気持ちに身を置いた。

(何年振りに言われた言葉だろう)

ふいに気恥ずかしさや憂いにも近い喜びが、じわじわと込み上げてくる。
こうなると、いっそ喧嘩でもした方が楽だった。しかし、今、優先すべきことは決まっている。

「た、ただいま」

満面の笑顔を目にしてなつきはやっと安堵する。
そうして“いつも通り”が再開された。
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by cyawasawa | 2009-12-25 02:18 | HiME SS(14)

百合と舞-HiMEとけいおん!!とアイマスと艦これと制服女子高生と一緒に歩んで生きたいブログ。コス写専用アカ→@cyawa_cossya


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